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経営に活かす原価監理

経営に活かす原価管理 第4回|原価と下請 下請と利益の関係性

地域経済研究所 コストコントロール部会 石岡秀貴 高田守康

 第1回目から3回目の連載では、実行予算管理による契約管理と支払い状況の把握と共に、時間をコントロールできる工程管理スキルを持つことこそが原価管理の本質である、ということを述べてきました。
 第4回は、工事原価の中で大きな割合を占める外注費、原価管理に大きく影響する下請企業との関係について、ご説明いたします。

 


 工事施工後に発生する原価の揺れ

 下請企業との関係性が理想的になると、現場の生産性は驚くほど改善されて、原価低減、即ち利益拡大に大きく貢献します。
 しかし現実には、多くの元請企業が、理想的な元下関係を築くことが出来ていないのではないでしょうか。その理由は、元請企業の考え方が、正しい原価管理の原理原則から外れているからです。そこから変えていかなければ、下請企業との関係性も変わらないし、現場での原価管理のレベル向上も頭打ちになるでしょう。
 もちろん原価管理の原理原則を正しく理解して、優れた結果を出している代理人も、少なからずおられると思います。しかし、現状は、いかに下請けを安く叩き、いかに請け負けさせるか、という考え方が蔓延しているのではないでしょうか。
 確かに、外注費を安くすればその分は利益ですから、当然元請企業としては、少しでも値段を下げる交渉をするべきです。問題は、下請けの契約金額を取り極めればそれで原価が確定する、という感覚です。
 下請企業への発注金額は、それで確定するかもしれませんが、下請企業自体の働き方によっては、元請企業の経費や他の下請企業への発注金額に大きな影響を与えることに気付き、注目しなくてはなりません。
 例えば、下請企業のA社とB社を比較した場合、A社の見積もりが1,000万円、B社の見積もりが900万円だったとします。この場合の両社の品質は、どちらも同レベルだとします。通常は、B社を選ぶのが正解でしょう。
 しかし、B社は見積金額が安い分、非常に忙しくて、現場への乗り込みが予定より2週間遅れた上に、8人の作業員が適切な現場にも関わらず、5人しか投入できなかったため、工事工程が2週間遅れたとします。結局、工程の遅れに伴う現場経費や仮設費が、150万円余計にかかった場合、結果としてB社のほうが高くついてしまいます。
 若しくは、1,000万円で提示したA社を無理やり叩いて、900万円で契約した場合にも、同様のことが起こり得ます。A社としては、別の良い条件の元請企業の工事に労務や機材などの資源を集中し、無理やり叩いた元請企業の現場は、後回しにされてもおかしくありません。
 どちらにせよ、施工能力(この場合は、乗り込み日程遵守と投入資源の量)を考慮せず、見積金額だけを見て下請企業を決定することは、結果的に割高な原価になる可能性が高いのです。

 


 元請と下請、相互利益に繋がるポイント

 それでは、どのように原価管理に取り組めば、下請企業と生産性の高い関係を築けるのでしょうか。

❶ 基本的な考え方
 まず、ゼロサムという考え方を辞めることです。
 下請企業が儲けると自分が損をする、という感覚を持つ元請企業が多いと思います。下請企業に背負わせた赤字が自分の利益になる、という酷い考えの元請企業もあります。利益を元請と下請で取り合うという、対立的な見方をしている限り、大きな工事利益を出すことはできません。
 元下が協力し合い、最高の生産性を達成することで、双方が満足する利益を得る関係を構築することが、原価管理の基本であり、すべての改善の土台になります。
 下請企業を叩くのではなく、現場の工程を徹底的に叩くことで、ムダのない正しい工程で施工することが共通の利益であり、これこそ真の原価管理のスローガンとすべきでしょう。

❷ 契約内容
 建設業界は、契約に対する考え方が曖昧な企業が多いです。契約金額の額面や支払条件等を決めることと品質を担保することだけが、契約書の役割だと思っている節があります。
 しかし、真の原価管理に取り組むのなら、時間に対する約束も契約内容に盛り込むべきです。時間に対する約束とは、施工の乗り込み日と労務や機材など投入資源量を確約することです。
 現在のような人手不足の中で、発注工事量が増加すると、数週間にわたって下請企業が入ってこないため、開店休業状態になっている現場が数多く見受けられます。また、作業員が10人必要な現場に5人しかいないような、投入資源が不足している現場もよく見受けられます。
 労務や機材など資源の投入遅れや投入量不足だけで、元請企業の利益は大きく損なわれ続けるのです。事前に、乗り込み日や投入資源の質と量、金額や品質など、すべての条件を明確にした契約内容でなければ、本当の契約とは言えません。
 時間と投入資源に対する確約の度合いと見積金額とを経済性で比較して、最も良い契約をすることが、正しい原価管理の条件です。

❸ 最速工程の作成、指導
 駄目な元請企業の特徴は、工程管理まで下請企業に丸投げしてしまうことです。それなのに、思い通りに工程が進まないのは、下請企業が悪いと思っていることです。
 実際に、大手ゼネコンから地場のゼネコンや小さな建設会社まで、どの規模の企業にもそのような現場代理人が数多くいます。工程管理を下請け任せにすることは、現場代理人として、最も重要な仕事を放棄していることと同じです。
 優れた現場代理人は、全体工期に対するコントロールを、絶対に下請け任せにしません。もう一歩踏み込んで言うと、優れた企業経営者は、全体工期のコントロールを現場代理人任せにはせず、さらに全社の工事工程と資源投入に細心の注意をはらっています。
 他の下請企業との調整を取ったうえで最速を目指した工程表に、下請企業の現場の知恵を組み込んだ作業計画を融合させて、現実的で最も効率的な工程表を作りこみます。そうした計画力を発揮することで、元請企業と下請企業が共に、最大利益を追求できる土台が出来るでしょう。
 このような原価管理を実現できる前提として、作業間の相互関係や時間のコントロールができる工程管理スキルを、会社全体として持つことが必須になります。
 工程管理スキルとは、ネットワーク工程表等を現場レベルで全員が活用できることです。
 外注の契約単価は、もちろん原価に対して大きなウェイトを占めますが、その下請企業の動かし方が、絶えず工事原価へ影響を与え続けることを認識し、それを元下で協力してコントロールしていく手段を持つことが、原価管理の勘所なのです。

 


 生産性の向上につながる下請企業の選択

 何より、施工速度が速いうえに契約単価も安ければ、より理想的な下請企業です。
 そのような下請企業をいつも確保しておくにはどうしたら良いのでしょうか? 下請企業の立場から考えると簡単です。
 同じ契約金額で同じような契約条件でも、元請企業の工程計画の能力が低いと、下請企業自身の利益が大幅に削がれます。他の下請企業との連絡調整や、発注者や地元住民との協議など、元請企業にしかできない役割の出来不出来で、下請企業の原価は大きく変動します。一日の進捗の遅れは、元請企業以上に下請企業の原価に影響します。
 優れた下請企業は、元請企業の現場代理人個人の能力を見て、見積もり金額を調整します。駄目な所長のいる現場は、断る大義名分を作るために、わざと高い見積もりを出したりするものです。優れた工程計画と工程管理を運用できる、優れた代理人に対しては、適価な見積もりを出しても、駄目な代理人の現場より利幅が計算出来て、利益を大きく出すことができます。
 元請企業は、下請企業に選別される時代になっていることに、気付かなければなりません。
 まとめると、下請企業の選択はVE思考で決める、即ち、価格ではなく価値で決める、ということです。

【VALUE(価値)= FUNCTION(機能)÷ COST(価格)】

 価格が高くても、それ以上に機能が高くなれば、価値は高まります。価格が低くても、機能がそれ以上に低い場合は、価値は低下します。
 ここでいう下請企業の機能とは、何なのでしょうか?
 決められた日に乗り込めること、工程に合わせて必要な数量の労務や機材などの資源を投入できること、さらに施工スピードが他社より早く、元請企業と協力して工程遵守できることです。これらの実行能力が、VEにおける機能です。当然、品質や安全を確保していることが前提になります。
 元請企業と下請企業の双方が、協力して利益を生み出す。その実績の積み重ねが、コストコントロール能力の向上に繋がり、最終的に大きな原価削減を実現するのです。

 



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