岐阜県建築施工管理技士会設立の背景と目的
岐阜県建築施工管理技士会 会長
(一社)岐阜県建築工業会 会長
(公社)岐阜県建築士会 相談役
㈱土本建設 代表取締役
土本 俊行 氏
山本 岐阜県では3年前に、建設業協会の方々が中心となって「岐阜県建築施工管理技士会」を発足されました。以来、土本会長は、建築施工管理に関する教育も評価されるべきだとして教育・評価体制の確立に取り組んでこられたわけですね。大変なご苦労があったと思いますが、まずは設立の背景と目的についてお聞かせいただけますか。
土本 岐阜県では10年以上前からさまざまな分野においてCPD制度の導入が進んでおりました。土木施工管理CPD制度は、県内の公共事業における総合評価の対象項目の一つに位置づけられていました。当時、建築分野においては、建築士を対象に平成14年度に始まった日本建築士会連合会のCPD制度などがあり、平成21年度からは建築施工管理技士にも門戸が広げられましたが、CPDプログラムは建築士を対象とした設計者向けのものに偏っているのが実状でした。つまり、我々が必要とする施工管理や工程管理、品質管理、安全管理に重点を置いたプログラムはなく、自分たちで作らなければならなかったのです。そのような背景がありましたから、施工管理に携わる人の技術力の向上や地位確立のためにも、岐阜県建築施工管理技士会の立ち上げは非常に大きな意味がありました。
我々の目的の一つが、地域建設会社の建築技術者向けの教育プログラムや講習を整えることです。大企業だけでなく、地方に根づいて事業を行っている施工会社の建築技術者のレベルを上げたい。建築技術者や技能者の育成にも、例えば京都では文化財保護に特化した大工や左官の学校があるように、地方によって特性があります。地方の特性に合わせた教育プログラムを組み、施工技術を伝えていくことが大切だと考えています。
山本 多くの建設会社が施工管理に携わっていますから、そういった教育は必要でしょうね。当基金でも一昨年から「 建築施工管理CPD制度 」の提供を始めたところです。まだまだ建築施工管理CPD制度を普及させるための工夫が必要だと思います。何か普及のためのアイデアはありますか。
土本 我々も、平成28年度から基金の建築施工管理CPD制度を利用していく方針です。普及のためには、発注者側の建築技術職員が参加できるような工夫をする必要があると思います。発注者側にも建築施工管理CPD制度の教育プログラムに参加していただくのです。それによって、公共工事で建築施工管理技士が高い評価が得られるようにもなるでしょう。また、基金が行う建築施工管理CPD制度が、都道府県や市町村で総合評価の対象項目になるように、働きかけを行うことも重要ではないでしょうか。
技術者には失敗から学ぶ機会が必要
(一財)建設業振興基金
試験研修本部 試験管理・講習部 兼 建築試験部 研究次長
山本 英史
山本 建築施工管理に関する教育プログラムの作成が重要だということですが、岐阜県建築施工管理技士会としてはどのような取り組みをされていますか。
土本 現在は、年一回程度、施工管理に必要な教育プログラムを開催しております。これまでには、県の工事検査監の方に工事検査時の品質管理の問題点や技術管理上の課題並びに共通仕様書の改正点等の説明をしていただいたり、コンサルタントの方に建築工事の労働災害防止策などについて説明していただく場を設けてきました。今年度は工事現場における工程やコストの管理手法についての講座を計画しています。
また、建築施工管理技士が岐阜県建設業協会をはじめとする各種団体が実施している講習会等を受講した場合は、審査会を設けてプログラム認定を行うなど、教育プログラムの充実に努めています。今年度は今までに37件の教育プログラムを認定しました。
山本 それらの教育で期待できる変化はどのようなものでしょうか。
土本 建築施工管理技士が材料や施工の手法に関する知識を深められるということです。以前は材料を発注するのは現場監督者でしたが、今は材料も下請の会社で発注することが多くなりました。そのせいか現場の技術者の“材料の良し悪しを判断する目”が鈍ってしまったところがあり、技術者それぞれの技量に差が出てきました。品質を維持できるということは、品質の管理ができるということ。新しい部材の採用を認めない技術者もいますが、施工管理する立場として知識や技術を持っていれば、後々のメンテナンスのことも考慮して、新しい部材を認めることもできると思います。
また、施工の細かな部分でもそのようなことはあります。例えば、コーキング剤の品質が格段に良くなった時期があり、それにより「コーキング剤でシーリングすることで雨漏りを止める」という認識を持つ人が増えました。しかし、どんなに優れたコーキング剤でも5年、10年すれば劣化し、雨漏りを起こします。本来はシーリングをしなくても雨漏りは起きてはならないのであり、コーキング剤はあくまでも補助的なものですが、そういった判断に偏っていることがあります。施工管理者がそのようなところをきちんとチェックし、失敗例についての学習を積み重ねていけば、施工ミスは減っていきます。
山本 確かに失敗例を皆が共有して学べば、技術力も品質も向上していくでしょう。ぜひCPDプログラムとして制度を活用していただきたいです。
土本 私は20年ほど岐阜県建築工業会の安全委員会で委員長を務め、毎年安全パトロールを行っていたため、各社の施工の癖がわかっていました。担当者によって、同じ会社でも施工管理や現場での判断に違いがあります。そういった事例を参考にし、日頃から教育に生かすことを習慣にしていました。特に現場代理人は、オーナーの代理として現場を管理するのですから一番大事な役目。積み重ねと改善のためにはしっかりと事例を共有し、学んでいかなければならないということを、多くの人に理解してもらいたいですね。
講習を受けて、他の技術者の知見や失敗事例を肥やしにして自分の仕事に生かすことはとても大切です。やはり品質を支えるのは人の技術力や知識。CPD制度を活用することで、ますますそれらを磨いていくことができるでしょう。
また、モデルケースを作ることも必要だと考えています。他の現場を見ると気づくところが多々ある。本当は現場見学ができるとよいのですが、時期や内容によっては難しいこともあるため、教育用に何か現場に近いモデルケースを用意できればと考えています。
山本 CPDプログラムで現場見学会を実施していただいてもよいと思います。他社の現場を見ることでお互いに技術や知識を取り入れる機会にもできるのではないでしょうか。
建築施工管理CPD制度に期待すること
山本 これから基金の建築施工管理CPD制度を活用していただくに当たって、どのようなことを期待されていますか。
土本 私は設計にも施工にも携わっていましたので、双方のやるべきことは、はっきり分かっています。施工管理に特化したCPDプログラムはまだまだ数が少ない。建築施工管理CPD制度には、まず一つ、プログラムの充実を期待したいと思います。そして何より、制度に参加する会員の数を、全国規模である程度まとまったボリュームにすることです。そうなれば実施事例やプログラムも充実するでしょうし、認知度も高まりますから、より「力」をつけることができると思います。そのためにも、公共工事については発注者に、建築施工管理技士が工事現場で施工管理しながら日常的に勉強していることを評価してもらえるようにする、これが一番大切でしょうね。
山本 我々としては、建築施工管理に携わる技術者の数、会員を増やしていくとともに、発注者に対して建築施工管理について技術力と知識を高めるために勉強している人がいること、教育を評価する制度があることを周知して、評価が認められやすいような形にしていかなければならないということですね。
土本 基金の皆さんにはぜひ、全国に広まるように努めていただきたいと思います。地方だけで盛り上がっていても駄目だし、国が旗を振るだけでも駄目です。両方からうまく手を取り合って、各地域で建築施工管理CPD制度を採用してもらえるようにしてもらいたいですし、国としても積極的に制度を採用してもらえるとありがたいと思っています。
(2015年12月11日、(一社)岐阜県建築工業会にてインタビュー)