企業経営改善

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建設業の経営革新 中小建設企業の経営改善の課題

建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業
南関東エリア統括マネージャー 中小企業診断士 藤原 一夫

国土交通省では、中小・中堅建設企業の新事業展開、企業再編、転業、廃業などの経営戦略の実現を支援する「建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業」を平成23年度に引き続き実施する。そこで今回、南関東エリア統括マネージャーである中小企業診断士の藤原一夫氏に、「中小建設企業の経営改善の課題」についてお話を伺った。

1.建設業界の将来性

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より豊かな暮らしを担う産業 将来を悲観することはない  

 公共工事の縮減をはじめとして、建設業全体が厳しい環境にあり、この20年あまり確かに建設投資額は減少している。世間では不況産業といった認識も広まっているが、だからといって建物の建て替えやリニューアルの需要がなくなったわけではない。これまで建設業は道路、学校、下水道などのインフラ整備においても重責を担ってきており、新規の発注件数は減ったとしても、その維持・管理・メンテナンスなどの仕事は今後急激な増加が見込まれる。国民生活の安心・安全を支え、豊かな暮らしの創造に大きく貢献している産業であり、それは今後も変わることはない。  建設業と似たような状況にあるのが農業だろう。我々の食生活になくてはならない農業だが、衰退した産業といわれて久しい。その要因の一つが、国の農業政策の過保護と言われている。過保護が続いたために、いつのまにか従来の農業のやり方では生計が立てられなくなった。一方、新しい考えを持った人たち、例えば居酒屋チェーンのワタミなど異業種からの新規参入が相次ぐようになった。また、植物工場といった新業態も登場している。工場で野菜や果物を生産する方法は、昨今の異常気象の頻繁化、及び食の安全・安心の要望が強くなる中で、非常に有望視されている。LEDや自然エネルギー技術の進化なども加わって、将来の都市農業の野菜分野で主流になるといった声も多い。ここで注目すべきは、将来的に農業は復活するであろうが、従来の農家のスタイルではないということだ。  それはそのまま建設業に当てはまる。国民の生活を豊かにする産業である限り、建設業の将来を悲観することはないが、その主役は従来型の建設業ではないと私は考える。

従来型の建設業ではなく新しい時代に即したスタイルへ
 建設業が今後、産業として盛り返すことは間違いない。ただし、それを担うのは、従来型の建設企業ではないだろう。農業と同様、旧態依然の建設業のやり方ではもはや限界に来ている。発注者の要望、発注形態が変化し、さらにIT化の波が押し寄せ、次々に新しい技術や工法が生み出される中、古い体質に固執することなく、新しい建設業のあり方を模索すべきだ。頭では分かっていても、現在の建設業界はそれが実践できていない。新しい時代の流れに沿って、例えば人材の採用・育成基準などを変えていく発想が必要だろう。建設労働者の確保についても、若い労働力が不足し、高齢化が進んでいる。こうした状況下にあっては、近い将来を見据えて女子労働力及び外国人労働力を含めて考えていく時期に来ている。この問題は行政も一緒になって取り組んでいく必要がある。  もう一つ、これからの建設業に求められるのが、地域生活者の支援としての「建設業のサービス業化の進展」だと思う。少子高齢化が進み、今後数十年は、日本の人口が確実に減少していくことは間違いない。国内主要都市への一極集中がさらに進み、地方部の市町村の多くが過疎化に陥るはずだ。地域住民が頼りにしていたスーパーや商店の撤退も相次いでいる。日々の生活を維持していくのも困難な中で、建設業者は指をくわえて見ている場合ではない。本業の充実はもちろんだが、それに加えて地域住民に役立つようなビジネスに参入することも必要だろう。地域の便利屋さんでもいい。地域に暮らす方々へ向けた生活支援。あまり儲かる仕事ではないが、そういった発想の転換が求められている。

2.建設業界の課題

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 原価管理、経営環境変化への対応ができていない
 次に建設業の課題について。一つは、言い古された話だが「どんぶり勘定からの脱皮」である。これまでの建設業は、景気の良い時は民需、景気の悪い時にも景気対策としての公共事業に支えられてきた。そのような恵まれた経営環境の中で、受注の仕方、原価管理の手法・レベルにおいて、製造業や小売業などの他業界に比べて遅れた状況に陥った。特に原価管理。八百屋の店主は「このリンゴは1個いくらで仕入れて、いくらで売れば儲かる」ことを熟知して商売している。しかし、建設業者はそれができていない。それほど努力しなくても利益を確保できる時代が長く続いてきたからだ。すでに時代は変わっているのに、いまだに対応できていな経営者が多い。これは大きな問題である。  二つ目は、経営環境変化への対応能力。早い話が、「場当たり的」なのだ。公共工事が減ることは分かっていながら、自分では動かない。誰かに頼ろうとする。政治家だったり、地元の有力者だったり、誰かに頼めば何とかしてもらえると考えている経営者も多いはずだ。自分自身で戦略を立て、逆境に対応しようという意識が希薄だ。この経営環境の変化に対応していく能力はぜひ身に付けてもらいたい。  三つ目は、後継者の育成である。「いかに事業承継するか」だ。新しい時代には、新しい発想の経営者が必要であるが、その考えが建設業界では遅れている。70歳、80歳でも現役バリバリの経営者はいる。問題は、古い感覚のままトップで采配を振るっていることだ。自分の感覚が時代について行かないと感じたら、後継者に道を譲るべきだが、それができていない。後継者を育てていないからだ。実際、これまでの業界は「顔と実績で商売」できた面もあった。しかし、早晩できなくなる。そこでの対応が遅れれば企業としての生き残りも危うくなる。また、これは後述するが、能力を全く無視した事業継承が横行しているのも問題といえよう。

3.問題解決のための戦略的対応

これからの建設業関係者はマネジメント能力向上が不可欠
 こうした課題に対応するために何が必要かというと、一つには「マネジメント能力」だと考える。そのためには、今までと同じやり方ではなく、差別化を意識した経営が望ましい。飲食業を例にすれば、他店と同じことをやっていても集客できない。人気店では「デカ盛りサービス」だったり「オリジナル性のあるメニュー」だったり、競争相手よりも魅力的な"何か"で集客力を上げている。その意味で、建設業界でも分野ごとに、耐震補強が得意、内装のリニューアルはお任せといった、それぞれ強みを生かして他社との差別化に目を向けることは重要なポイントだろう。具体的な方策としては、時代に即したITの活用なども視野に入れつつ行うことだ。  また、企業存続のために人材育成が不可欠であることは言うまでもないが、建設業界の中には、残念ながら、その意識が希薄な経営者も少なからずいる。「企業は人なり」であり、利益は人材が生みだすのだ。人材育成には、時間と費用をかけてじっくり行う必要があるが、その認識さえ不足している経営者が多い。それは事業承継についても同様。ある程度の規模になっていても「企業ではなく家業」として、能力の有無を度外視して自分の息子に継がせようと考える。財産の継承は税金さえ払えばできるが、経営能力の継承は簡単ではない。人材育成も事業継承も、常に将来を展望し、戦略的に対応することが求められる。  さらに加えると、営業力の強化についても目を向けてほしい。これまで仕事に困らなかった時代では受け身の営業だったが、これからの時代は、提案営業がポイントになる。これまではお客様やゼネコンの言うなりになっていれば利益が出せたが、そんなに甘くはない。受注先の企業・個人が何を求めているのかを先読みし、提案できるような営業マンをいかに多く育てるか。そして、営業センスのあるスタッフを数多く抱える組織をつくれるか。そこが建設ビジネスのキーポイントになると思うのである。

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