企業経営改善

建設業経営者インタビュー

制度の活用で新分野へ進出建築と自然エネルギーの融合/経営者インタビュー | 工藤 一博さん(岩手県)

工藤建設株式会社
工藤 一博 社長

制度の活用で新分野へ進出
建築と自然エネルギーの融合

工藤 一博さん

工藤 一博さん

1951年岩手県奥州市生まれ。大学を卒業後、製薬会社に勤務。1980年工藤建設(株)に入社し、1991年代表取締役に就任。2012年東北大学大学院を単位取得退学。

工藤建設株式会社
本 社 岩手県奥州市水沢区
設 立 1950年
社 長 工藤一博
社員数 55人

●会社の概要

社屋

 昭和25年、大川建設工業(株)水沢出張所として発足、創業しました。その後、昭和37年に工藤建設(株)に組織変更し、現在に至ります。主な事業は、治山、道路、築堤、法面工事ですが、当時は安定した仕事がなく苦労の連続でした。利幅の少ない冬期は全社員を解雇し、翌春に再雇用するといった業務体制を取っていたので、満足な人材育成もできませんでした。その解決には定期的な受注が必要でした。
 私が代表に就任したのは平成3年です。まず行ったのが、こうした流れを打開する“企業としての強み”づくりでした。独自の技術的な強みを持つことが、企業としての体力強化につながると考え、平成9年に「ガイドベーン付クロスフロー形風車」の開発をスタートさせました。世の中に3枚羽の風車はあったのですが縦軸で回転する風車がなかったので挑戦したのです。その後再生可能エネルギーを中心とした開発にこだわり、雪氷冷熱の利用、地中熱の利用など様々な技術に挑戦してきました。

●チャレンジ

 公共事業が悪者扱いされ発注が減少し、さらに入札時のダンピング問題などの影響で、廃業や倒産する建設業者が増加しました。当社でも建設業のみでは利益が出ないため再生可能エネルギーの新分野進出に力を入れ収益の大きな柱にしたかったのですが、新しい事業を生み出すことの難しさを改めて痛感しました。
 再生可能エネルギー製品の開発には莫大な費用を要するため、様々な役所の研究開発の補助金を利用しています。当初は補助金の申請書をなかなか書けなかったのですが、何度も書いていくと要領が分かってくるようになり採択されるようになりました。この文書を書く技術が、その後の公共事業の総合評価方式で求められる施工計画書で大いに役立つようになり、ある時の入札では約1,700万円の価格差で逆転できるようになりました。
 今では当たり前になったFB(ファームバンキング)や401Kはこの地域で最初に導入しました。社内はイントラネットで結び情報の共有に努めています。
 給与体系は、技術職員を仕事ができる能力で格付け評価しました。賞与、退職金などもそれに連動するようにしました。技能職員は仕事ができる能力を時給で評価するシンプルな給与体系を作ったことで働きやすくなりました。単純なシステムなので収入を意識しながら仕事ができ、やりがいにもつながっています。ただし、これまで何人ものコンサルタントの方に指導いただきましたが、現在に至るまでには様々な挑戦があったことも事実です。

●公共事業の表彰制度

 各発注機関には表彰制度があり、工事現場が終了すれば完成検査を受けます。この検査で評価点数がもらえ、その結果成績の良し悪しで発注機関から表彰されます。表彰を受けるとこれが施工実績として評価され、入札で有利になる仕組みになっています。
 社内においても良い点数をもらった現場には高く評価する制度を作っています。そのため技術者同士が『あの人がこの点数を取ったのだから、俺はそれ以上とらなければ』と言った競争が激しくなっています。その結果、最近では殆どの工事が表彰される評価点数をもらっています。

●助成金の活用

主な助成金関係

 様々な人と付き合っていると仕事ができる人の共通点は、自社の決算書を頭に入れている、世の中にある様々な制度を利用している、と言えます。地方では決算書の話になると税理士に任せていますと言う社長が多いのが実情です。私は税理士の上を行くくらいの情報を持ち、税理士をこき使うくらいが必要だと考えています。そのため会社の利益と設備投資(減価償却)や税制改正については特に注目しています。
 の様々な制度の利用とは、たとえばJRの切符を購入するにも、安く買える方法があるなどです。
 当社では自然エネルギー部が研究開発の補助金を利用し、総務が雇用関係の制度を利用しています。どちらもネット上に出たらすぐの応募できるように準備をしています。

●パッシブハウスとの出会い

高密度移動式雪氷庫

 これまで冬に降った雪を貯蔵した「高密度移動式雪氷庫」、地中熱を利用した「地中熱空調システム」、様々なデータを監視する「環境監視モニター」などを開発してきました。昨年、この監視システムが岩手県の「建設業新分野進出等表彰」の最優秀賞に選定されました。自然エネルギー事業も建設業と並ぶ事業の一つとなっています。
 現在、力を注いでいるのがパッシブハウスです。4年前、講演会でドイツの住宅は壁厚が60㎝もあり、住む人の発熱、調理の熱や電気製品の排熱を暖房に利用した家(パッシブハウス)があると聞き、さっそくドイツに行ってきました。ドイツに行ってパッシブハウスを見て、この技術に当社でこれまで培った再生可能エネルギーの技術を組み合わせれば、さらに省エネの住宅が作れるのではないかと思い取り組みました。4年がかりで取り組み今年6月完成しました。
環境監視モニター Q値(断熱係数)0.61kWh/㎡・K、C値(気密性能)0.1㎠/㎡というこれまで考えられない数値を達成することができました。この地域では冬は年間1,000リットルの灯油が必要でしたが、本モデルハウスの場合、暖房に必要なエネルギーは灯油に換算して約20リットルで済むことになります。見学者に驚かれるのが風呂の蛇口が4本あることです。それは太陽熱、薪ボイラー、井戸水そして上水道の4本です。口に入れない水(井戸水)はトイレ、洗濯、風呂などに使います。その他雨水も金魚用の池や散水に利用しています。現在、東北初のパッシブハウス(申請中)として、モデルハウスの見学会を実施中です。

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経営のポイント
会社のシステムを整えること
助成金は出来る限り活用する

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