原 諭さん
島根県出身。京都大学大学院土木工学専攻修了後、大手ゼネコン会社に就職。現場と事務職を8年経験後、原工務所に入社。平成17年より現職。
株式会社原工務所
本 社 島根県江津市敬川町
創 業 昭和5年
社 長 原 諭
従業員数 78名
●時代の変化に合わせた柔軟な事業展開へ
昭和5年に原組として創業しました。私で4代目となります。創業当時から地域密着型の土木工事会社を標榜し、いまは公共建築から一般住宅まで幅広く施工、設計監理を請け負っています。最近では、ガードレール支柱などの根入れ深さ(埋設部の長さ)を測定する業務も行っています。また、昨年は社有地を利用して太陽光発電所を建設し、約2万㎡の敷地に8,800枚の太陽電池モジュールを設置しました。さらに売電事業も展開しています。入札ひとつとっても、県内案件がほとんどの私ども地域ゼネコンですが、時代の変化や世の中の動きに合わせ、やり方を工夫しています。
●建設企業に求められる緊急時の対応
昨夏も山口・島根県に豪雨がありましたが、この災害の影響が大きく、現在島根県西部には復旧工事が多くあります。島根県は土地柄大規模な水害が多く、過去には昭和47年、58年と豪雨による災害が発生しました。その当時も復旧工事にあたったと聞きます。しかし、以降30年ほど当社には復旧工事の経験がなく、当時を経験した世代と、その経験がない世代とでは、災害への認識や経験値に差があります。今回の豪雨で、「今後何をしていくべきか」考え直すきっかけになったのではと思います。
例えば重機の数。2~3年前までは、以前ほど重機を維持できるほどの仕事はありませんでした。しかし、リースに頼っていては、道が分断された際に対処できないので相当数は必要。もちろん機械だけでなく、人も必要です。「災害が起こったときに建設業者が対応する」ということは、従業員みんな理解してくれていると思います。
当社では、国土交通省から一級河川「江の川」の維持管理の仕事を請け負っており、土手の草刈りや壊れた堤防を修繕したり、大雨時の排水作業も行っています。そのため国土交通省からポンプ車や照明車などを数台預かっており、災害時に出動させるなどしています。地元の方からお礼の言葉をかけていただくこともあり、日々の励みになっています。小さな田舎町ですし、災害が多いこともあり活動が目につきやすい。地域に根付き、この場所で仕事を続けていくことについては、従業員も使命感を持っているはずです。
●地元で仕事をする上で業界のイメージアップは欠かせない
島根県には「ハートフルロードしまね」という道路愛護ボランティア制度があります。当社でも平成21年からこの制度に取り組み、県管理道路の清掃や緑化、草刈りを定期的に行なっています。また、島根県・島根県警察本部では子どもや女性を犯罪から守る「子ども・女性みまもり運動」があり、こちらにも参加しています。両制度とも県のホームページに参加事業者として名前が掲載され、自社のホームページでも紹介しています。
●江の川の護岸に「ブロックアート」を施工
昨年5月に着工した江の川(邑南町都賀西地区)の護岸工事が、今年3月に竣工を迎えました。この工事では当社からの提案で、護岸を形成するコンクリートブロックの一部にカラーブロックを用いてブロックアートを完成させました。デザインモチーフは、地区のランドマークである「都賀大橋と江の川を泳ぐアユのつがい」。赤・黒・グレー3色のブロックを使い、図案は地元の方々と一緒に考案しました。このデザインを生かすため、江の川を代表する築漁付近に施工し、JR三江線からも見えます。ぜひ多くの方に訪れていただきたいですね。
当社も色々と試行錯誤しながら地域活動に尽力してきました。職員はそれぞれにキャラクターがあり、創作活動が得意な人もいて、活動の幅も広がってきました。行政にも協力いただき、いまはみんなで地域をつくっているという実感があります。
●舗装前の側道橋に小学生が描く「まちづくりの絵」プロジェクト
絵の写真は工事期間中側道橋の高欄部に展示した
平成22年、国道9号の整備工事に伴い、国道脇に側道橋を建設しました。浅井川に架かるこの橋は松原小学校に通う子供たちの通学路となります。愛着を持って使ってほしい。その願いから、同校の5年生24名に歩道整備を見学してもらい、舗装前の橋面に「安全できれいな街づくり」をテーマに絵を描いてもらいました。
子供たちは社員から絵筆を受け取ると、それぞれに絵の具を選び、虹やハートマーク、花模様といった色鮮やかな絵を完成させました。舗装後は、絵は隠れてしまいますが、橋を歩くたびに「この場所に絵を描いたなぁ」と思い出してもらえるとうれしいですね。子供たちには、「道路づくりを見て『いいな』と思ったら、ぜひこの仕事に就いてくださいね」と伝えました。
こういった地域活動に限った話ではありませんが、 “やって終わり”ではなく、“やったことを発信する”ことが大事です。地元で仕事をする上で、世間に向けた業界のイメージアップのためにも地域活動と情報発信は欠かせません。
●未経験でもいい 地元からの採用は大切にしたい
この2~3カ月は未経験でも現場で働きたいという人が増えています。今年4月には高校生2名を採用しました。1人は専門学科を出ており、もう1人は普通科です。体ひとつあればやれる仕事もたくさんあるので、本人のやる気次第で何でもできると思います。あとはそれを本人が良いと思えるかどうかで、働きたいという気持ちは大切にしたいと思います。
本来は「面白そうだな」と、ものをつくるのが好きな子どもは多いと思うんですよ。しかし、実際には3Kといわれる働く環境や収入面への意識のウェイトが高くなってきており、人気もなかなか出てきていないのが現状です。それらの環境改善は当然必要ですが、ものづくりの楽しさや地域社会貢献の充実感など、それを補って余りある魅力的な仕事だと思っています。
多くの人が生活している以上、我々建設業者が地元にいることに意味があります。その機能を果たせる会社でありたいと思っています。いまは地元自治体の災害復旧など、地元建設業として、しなくてはならない仕事が多くありますので、国の入札にもなかなか参加しにくい状況です。しかし、この状況はあと1年程度で、その先に仕事があるかは不透明です。振興基金さんには、私たちのような地域の建設企業が、きちんと地域を守っていけるような環境づくりのためのサポートをしていただけたらと思います。