企業経営改善

建設業経営者インタビュー

独自の技術力に磨きをかけて、世界で勝負できる会社を目指す | 株式会社村上組 村上 博信さん(香川県)

村上 博信さん

村上 博信さん

1973年7月17日、香川県出身。香川大学商業短期大学卒業後、村上組に入社。2010年10月、現職就任。

株式会社村上組
本  社 香川県高松市
設  立 昭和26年
社  長 村上 博信
従業員数 130名

 

特殊技術を必要とする工事が最大の強み

 当社は土木工事、基礎工事、解体工事と、仕事の大半を土木が占めています。私で三代目となりますが、もともとは砕石を扱っており、昔から重機を必要とする工事は当社の強みでもありました。現在、全国で20数台しかない機械を4台所有し、「TRD工法」と呼ばれる特殊な連壁(れんぺき)工事(地中連続壁工法)で、東京営業所を中心に全国各地の工事を請けております。
 ここ数年の課題としては、やはり人材の高齢化です。特にオペレーターや技術者の高齢化が顕著になってきました。幸いなことに毎年新卒の学生を5名程度採用してきたので、現在はその若手社員をどう育て上げるかに苦心しています。先輩社員が若手に向けて機械の操作方法を教えたり、勉強会を開催したり、いろいろと取り組んでいます。ちなみに今年は7名採用し、その5名が新卒(大卒4、高卒1)になります。
 雇用については、女性の採用も積極的に考えていきたいです。昨年、ベトナムの会社とタイアップして、ベトナムに現地法人を設立しました。彼らは勤勉というイメージがありますから。今後は、外国人労働者の雇用も前向きに検討していきます。

●“一致団結”を合言葉に社内環境づくりに尽力

社員の家族に向けた広報として『村上組社内報』を発行

社員の家族に向けた広報として『村上組社内報』を発行

 社員に対しては、常に「愛情を持って育てる」ようにしています。そのためには家族的な付き合いでコミュニケーションを深め、“一致団結”を合言葉に社内環境づくりに努めています。現場ではチームで動きますから、チームワークが一番重要。社内イベント(マラソン、ボーリング、ゴルフなどの大会、社員旅行など)も積極的に企画しています。社員が何でも言い合える“風通しのいい”社風を大切にしています。
 当社はグループ会社も多いので、職種のミスマッチを避けるために、社員の希望に合わせて職種替えを行うこともあります。こうした取り組みの結果、昨年は一人の離職者も出ませんでした。同業他社に比べれば、圧倒的に定着率がいいと思います。
 私が社長に就任した4年前に『村上組社内報』(年4回)の発行を開始しました。一番の目的は、社員の家族の皆さんに会社の様子を伝えるため。特に奥様には、安心して旦那さんを会社に送り出してもらいたい。この社内報は、多くの方々の目に触れるように、ホームページにも掲載しています。
 建設業のイメージアップについては、業界全体で取り組むべき問題だと思います。子どもさんが建設業に進みたいと言って、親御さんが反対するのは「建設業の将来性」に不安を抱えているから。昔のように国が長期的な経済対策やビジョンを示してくれれば、先行きの不透明感を払しょくできるし、建設業に対するイメージも変わってくると思います。
 少し前まで忙しかった職人さんも、いまは辞めてタクシーやトラックの運転手をしています。業界から離れていった職人も少なくありません。そういった職人を見ているから、その家族や子どもたちも業界に入りづらくなっているのでしょう。これを何とかするには国を挙げたアクションが必要だと思います。

 

●先人たちの苦労があっていまの会社がある

社員で開発した「まんでがん工法」

社員で開発した「まんでがん工法」

 冒頭で特殊技術について触れましたが、技術を駆使するには、機械を操作する優秀なオペレーターが欠かせません。技術向上を図るために定期的に技術検討会を開催し、「現場での不具合の事例や、改良すべき事項」について話し合っています。「工期短縮」「環境への配慮」「杭打ちの騒音軽減」「安全面への配慮」など、検討すべき事柄は多々あり、私が取りまとめを行います。昨年は、既存杭を取り壊し撤去できる「まんでがん工法」を社員で開発し、初めて特許の申請出願もしました。
 重機やオペレーターを自社で抱えるのは大変ですが、これは、先代社長の「常に技術力は向上させること、社員を大切にすること」の考えから。一時は、同業他社から「アホちゃうか」と揶揄されたこともありました。でも、社員を大事にしてきたことの証として、当社にはOB会もあり、メンバーには創業時の頃からの方もいらっしゃいます。時々、その方やご家族を招いて、現在の幹部に当時の苦労話を聞かせます。自分たちが頑張ったから会社があるという勘違いをしないように。先人たちの苦労があっていまの会社がある、という歴史や伝統を忘れずに、永く継承していきたいと思います。

 

●キャッチフレーズは地元+世界の「グローカル」

 現在、当社では社会貢献活動に取り組んでいます。10年ほど前、町内のゴミ拾いから始まったことで、いまではすっかり社内に定着しました。地域イベントへの参加はもちろん、グループ会社の中には積極的に身障者を雇用しているリサイクル工場もあります。
社会貢献活動の根底には、「ローカル=地元」を大切にする精神が宿っています。当社のキャッチフレーズは「グローカル」。香川県に根を生やしつつ、卓越した技術力を武器に、「世界を視野に入れていこう=グローバル」という意味です。今後とも技術力に磨きをかけて、世界で勝負できる会社を目指したいと思います。
 基金さんには、若者、新卒学生がこの業界に目を向けるような環境づくりをお願いしたいです。個々の企業努力では限界があります。世間の人たちに「建設業の魅力」をアピールしていく、そんなアイデアを期待したいです。

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