企業経営改善

女性経営者座談会|"女性"のためではなく、すべての建設業従事者に働きやすい環境を|女性経営者からの問題提起

 建設業女性経営者の方々にお集まりいただき、「女性経営者座談会」を実施しました。経営者としての仕事への向き合い方、不安や希望、目標、やりがい、現在の景気変動や社会背景による業務への影響、担い手の確保・育成などについてお話しいただきました。女性ならではの視点で、自社の社員だけでなく、業界全体に働きやすい環境を整備すべきだという女性経営者の皆さん。どのような改善が必要か、さまざまな角度から問題提起がなされました。(1月21日、当基金役員会議室にて取材)

女性経営者座談会|"女性"のためではなく、すべての建設業従事者に働きやすい環境を
 


 

 
1. 書類が多い

 

 
子安 克枝さん

今田 子安さんは昨年、業界新聞の取材に書類の簡素化のことをお話しになっていましたね。
子安 事務員の負担はとても大きいです。当社は全国でさまざまな形態で仕事を請けているので、提出する書類の種類も数も膨大。私自身、夜中までこれでもかというくらいに事務仕事をしています。シート張りの作業はスポットが多いので、一カ月に20現場くらい動くんですよ。事務員の頭が追いつかない。「このゼネコンの書類はこうだったのに、次のゼネコンはなぜ書類が違うんですか!」となる。私は何年もやっているので「顔が違うだけで内容は一緒じゃない?」と言うんですけど、事務員にとっては「なぜ違うんですか」となってしまう。このような状態では、働きやすくするために書類簡素化は必須だと考えています。

 

 
2. 現場ごとのローカルルールが煩わしい

 

 

子安 現場ごとにローカルルールがあるのも困ります。車の通行にしても、昨日行ったゼネコンの現場では右側通行、今日の現場は左側通行。どちらかに決められないのでしょうか。当社で担当する仕事はだいたい1週間ですが、行く先々にローカルルールがあるので常に頭を切り替える必要があります。他社の人たちでは、長期間いた現場から違うゼネコンの現場に行かされることがあります。今まで1年もいた現場とルールが変わる。年配の方には、すぐ覚えられません。事故なくスムーズにするためには、事務所関係の書類同様、現場のルールももう少し考えていただきたいところです。
今田 安全確保といった意味でもルール化は大事ですね。

 

 
3. 現場を知っている人が少ない

 

 
佐々川 和子さん

今田 行政や団体に対する意見はありますか。
佐々川 行政や団体の担当者、私どもの業界にも言えることですが、現場を知っている人が少ないと思います。現場を見て「上司に相談してきます」「検討してきます」と言って3日くらい経ち、困ってしまったことを思い出します。
 景気の良かった時代に入社した社員が多くの現場で経験を積み、ベテランとして活躍している中、若手への知識と技術の継承が難しいことを感じています。行政や団体もそうではないのでしょうか。机上の学習ばかりが多くなり、現場を見て肌で感じ、知識経験を積むことが少なくなっているように感じます。互いに積み重ねることで、問題が発生したときにもいろいろな意見や提案を出して良い方向を決め、遅滞なく進めることができるのだと思います。良い物を作るため、業界と行政や団体両者が、知識と技術を継承していくことが重要ですね。
子安 近年は現場に入ってこない人たちが増えましたね。ゼネコンでも、昔みたいに一緒に仕事をする方たちはいなくなりました。最低限の、基本的なことは理解しておいてほしい。

 

 
4. 労働環境の整備が必要

 

 

武山 ここまでかなり辛口に言ってきましたが、結局、働く人に男も女も関係ありません。建設業がどうやったらよいものだと認知されるか。それを考えるとやはり労働環境を整備することはすべての働き手にとって必要なことだと思います。
子安 建設現場で働く女性のトイレ事情について語られる機会が多いようですが、男性でもトイレは大変なんだよということをきちんと聞いていただきたいと思います。
武山 そうそう。私は現場に行ったらトイレを見るんです。現場のも現場事務所のもとても汚い。「これじゃ私入れない! あなたたちも嫌でしょう?」ということがあります。
子安 "女性のために"「女性が困っていることはないですか?」ではなくて、「働いている皆=作業員や従業員のために」という視点が大事なのです。
武山 働く人のためのトイレとして考えてほしいですね。仕事ができると自負している現場代理人の現場はトイレがきれいです。同じ人間として、衛生管理は大事。現場の人全員が気持ちよく過ごせないと、働き続けていけないと思います。

 

 
5. 子育て、共働きのための制度改革を

 

 
宮本 ゆり子さん

宮本 女性の活躍と言われますが、仕事の場だけあってもダメだと思います。まずは、安心して子どもを預けられるところがあってこそではないか。「子どもは産みなさい」「仕事もしなさい」では負担が重すぎるのではないでしょうか。
佐々川 子どもが現場の監査の日に熱を出したとき、"女性の活用を"と言う側の皆さんはどうしてくださるんですか。だれが子どもを見ていてくれるのか、だれが病院に連れて行ってくれるのか。トイレやシャワールームはお金を出せばなんとかなるけれど、大事なのはその前段階です。
武山 現場を持っている現場代理人だと、子どもが熱を出したから、ご飯を作るからって、帰るとは言えません。現場に出るのはスキルアップになってよいのですが、丸一日張りついているというのはどうなのか。子どもを持つ人も結婚する人も少なくなるのは仕方ないことです。男性ももう少し考えてほしい。政府が策定する政策もやはり本末転倒なところがあり、「なんだか違うな」と感じてしまうのです。
佐々川 当社にもパートの人がいますが、100万円の壁がある。所得制限の枠があるので、土日祭日は休んでいますが、それでも暮れに休まないと調整が取れない。この枠をなくして、一生懸命働ける人は働けるような仕組みづくりも必要ではないかと思います。

 

 
6. 原資確保と環境改善の両立を

 

 
武山 利子さん

武山 女性の活用? 担い手の育成? どれも原資がなかったら実現できないんですよ。給料も出ない、どうしようと言いながら育てるのは無理です。当社の目標は、若年者の収入アップ。中高年の人たちは経験も工事経歴も持っていますが、若い人たちは使えるようになるまで10年かかる。でも生活はさせなければならないのですから。目標は、現場を張っている人たちが楽しく普通に生活ができることと、土曜日や日曜日に遊びに行ける環境にすることです。週休2日の現場もありますが実際には難しい。従業員が休んでいても、結局下請の方が動くことになるのでは、業界全体としては意味がありません。
子安 単純に週休2日にしてしまうのも問題があります。出稼ぎの土木作業員は日給がないだけでなく交通費もかかって稼ぎが少なくなってしまいますから。以前のように、土曜日は働いてゴールデンウイークを1週間休みにするとか、お正月も1週間から10日休みにするとかして、充実した家族との時間もとれるようにすることは大切だと思います。
武山 発注者の側にも、そのあたりを見直してもらいたいです。

 

 
7. 女性部会も責任を持つべき

 

 

佐々川 私は新潟県建設業協会女性部会長になっています。部会の幹事は支部ごとに選出されてきます。社長・取締役・社長の奥さんがいますが、多くは支部長の会社の事務員が多いです。役員選出時には「私は事務でしかないから」と断られてしまうので、ある程度の役職の方から出席してほしいと思っています。建設業界全体が女性を積極的に活用しようというのであれば、女性部会もその気持ちを持っていなければならないし、全国でそういった女性部会を作って集まれるようになればいいと思います。
今田 ぜひ女性の経営者の声を大きくして発信していただければ。我々も支援していきたいと思います。
武山 今日は全国から47人来ていませんからね。でも全国大会、実現したらいいですね。

 
 
 

 

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