企業経営改善

今後の建設産業政策とその展望を語る

国土交通省 建設流通政策審議官 海堀 安喜 氏
(一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 昨年、横浜市の分譲マンションにおいて発生した基礎ぐい工事問題。背景には建設業の構造的課題があると考えられることから、中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会に設置された基本問題小委員会が開催され、建設業の将来を見据えた議論が行われてきました。「中間とりまとめ」(6月22日発表)で示された、建設業界のさまざまな課題への対応について、海堀安喜建設流通政策審議官に伺いました。

 

 


 
 6. 長期ビジョン ―建設業界の進む方向とは


 

内田 安倍総理も言われているように、国際経済も日本経済もますます不透明感が高まっています。そろそろ5年後、10年後、建設産業はこうなっているのではないかという長期ビジョンがほしいところです。ぜひ将来に向けての取組を、ビジョンとして示していただけるとありがたいのですが。
海堀 実際のところ、「ビジョン」がきちんと出せるようなきちんとした準備もなく、抽象的な方向性はさまざまな形で示されているものの、確かな将来像はまだ描けていないと思います。人口、経済、財政といった様々な地域の実情を具体的なデータを基に整理していかなければ、ビジョンは絵に描いた餅になってしまいます。例えば、東北では震災が起こって、三陸沿岸に高規格の復興道路が施工されています。集中的に投資をするということは、将来の投資を前倒ししていることになる。それを踏まえて、この地域でどういう業務の需要が生じるのか、しっかり踏まえなければなりません。
 どんなことがあっても必要なのは、災害対応や維持管理です。それらの規模はどれくらいになるかを想定した上で、他の公共・民間の投資を見極める必要があります。
 建設産業は地域に根付いた産業であり、国内、各都道府県、各市町村とエリアごとで住み分ける側面があります。しかし、国内の人口が減る一方で、アジア諸国の人口は増加し、インフラ需要が増加していく今、従来のエリアの見直しだけでなく、海外に目を向けることも求められてくるのではないでしょうか。中小の建設会社であっても得意な分野での技術協力、技能実習生の受け入れなど、やり方はいくらでもあります。大手中小問わず、国内公共工事の量が仮に減ったとしてもそれをカバーできるような分野を持っておくことが重要だと思います。
 日本全体では500兆円のGDPを600兆円にしようという大きな目標が立てられており、既存ストックの有効活用、都市の再生やコンパクト化といった動きもあります。今後の日本社会がコンパクト化していく中で、事業の規模ではなく、どう利益を上げていくか。これを企業単位のみならず、地域単位でしっかり考えながら運営することが、ますます重要になると思います。「施工」の仕事から「維持管理」「地域経営」など、どれだけ周辺の分野に、各企業が意識を伸ばして取り組み、社会や地域にどのように貢献できるか。こういったことをみんなで考えていくことがソフトの面でのビジョンにつながるのではないでしょうか。
内田 先行きを明らかにするための勉強はしていくけれども、それとは別に利益をあげて稼いでいく、そのための知恵を絞ってほしいということですね。
 今回の中間報告は大胆で画期的な問題提起が多数なされました。拙速になってはいけないと思いますが、着実に一つ一つ答えを出していただくことを期待したいと思います。

 中央建設業審議会・社会資本整備審議会基本問題小委員会中間とりまとめ概要
 基礎ぐい工事問題で提言された構造的課題等について平成28年1月から計7回審議。
 中間とりまとめでは各課題について対応策を提示。

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