人材確保・育成

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座談会 建設産業における人材育成の課題

遠藤 和義 工学院大学 建築学部 教授
井上 花子 (社)日本造園組合連合会 理事
石井 直樹 群馬県立前橋工業高等学校 教諭
内田 俊一 (一財)建設業振興基金 理事長
枝川 眞弓〈司会〉 (一財)建設業振興基金 構造改善センター研究部長 〈敬称略〉

4月1日に国の認可を受け、「一般財団法人建設業振興基金」として新たなスタートを切りました。新法人移行を機に、顧客である建設企業、団体などの視点に立った「お役立ち度」を向上させるための各種事業の見直しや具体的方策、これを実現するための組織基盤の強化に取り組んでいます。
平成24年度は、①企業経営改善の視点、②人材確保・育成の視点、③震災復興支援の視点、この3つの視点を「重点的取組事項」として業務を進めていきたいと考えています。 そこで今回は、2つ目の「人材確保・育成の視点」をテーマに座談会を開催しました。

自分の子供を会社に入れたい
そんな魅力的な会社づくり

――井上さんはどうお考えでしょう?

井上 若い人たちは造園業に対して夢を抱いて入ってきますが、最初は管理業務だったり、草むしりだったり、とても"ものづくり"とは言えない仕事で、やる気を失うケースも多いと聞いています。できるだけ早くものづくりの面白さを教えてあげてほしいですね。設計図に描いたものが徐々に形になり、そこから夢が膨らむわけですから。そして、入社3年後くらいに小さな現場の責任者になって自立する......。石に上にも3年と言いますが、入社して3年後ほどは若い人たちが技能を覚えるための期間とする、そんな仕組みづくりも必要ではないかと思います。

 それからもう一つ付け加えますと、会社に入って3年間ほどは若い人たちが技能を覚えるための期間として、じっくり育ててあげられるような、また覚えられる機会をつくってあげられるような、そんな仕組みづくりが必要ではないかと思います。石の上にも3年と言いますが、入社して3年間ほどは若い人たちが技能を覚えるための期間とする、そんな仕組みづくりも必要ではないかと思います。

――遠藤先生はどうでしょう?

遠藤 マクロのレベルで考えると、1997年代に685万人いた建設就業者が、現在はそれよりも200万人ほど減っています。ここ最近は震災復興で少し増えてはいますが、確実に右肩下がりの状況があるわけです。「腕はよくても、仕事がない」という職人さんも増えています。仕事の全体量が減ったという現実を前に、この仕事から離職していく人たちもいます。若い人たちを上手にOJTなどで育成し、基幹技能者を多く輩出できるような状態をいかに守っていけばいけるのか、現実は相当厳しい状況に来ているのではないかと思いますね。

内田 現在働いている社員や技能工の皆さんが、自分の子供をその会社、現場で働かせたいと思っておられるかどうか、これがポイントではないでしょうか。自分の子供を行かせたいと思えないところに、他から若者たちが入ってくるはずはない。今働いている方たちの処遇や環境の改善が取り組みの原点だと思います。それが難しいということなら、若者をこの業界に招くのはあきらめなさいとなるのだろうと思います。会社の経営者の皆さんに申し上げたいのは、社員の方々が「自分の子供を入れたい」と思えるような魅力的な会社にしてもらいたいということ。やはり、そこが原点だと思うんです。

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行政や関係機関、
振興基金に期待すること

――ありがとうございます。それでは、皆様の取り組みの今後の展開、または方向性などについて具体的にお話しください。また、その取り組みを進めるに当たって、行政や教育機関、業界全体、または当基金に期待することがあればお願いします。石井先生はいかがでしょう?

石井 1点目は、工業高校の教育関係者が政策・施策会議へ出席できるような機会が少なく、なかなか意見を発表できない現状があります。我々職員側にも危機感を持っていない人も少なくありません。その辺の意識を高めるためにも、ぜひ機会の創出をお願いしたいです。2点目は、工業高校の位置付け、存在意義が不明確になっていること。技能者の育成に徹すればいいのか、それなら職業訓練校だろうし、そのあたりで悩むところがあります。3点目は、各省庁になかなか意見を聞いてもらえない中で、振興基金さんにはぜひ行政と建設業界のパイプ役、まとめ役をお願いできればと思います。

井上 私もそれは同感です。それから、建設業界のことをもっと世間に知ってもらうための広報的な活動もお願いしたいですね。ダムしても道路にしても、そこに働く人がいて成り立っていることが、今ひとつ伝わっていないような気がします。女性の立場で言うと、母親層に向けた発信が足りないと思います。ご存じのように本業界は「危険、汚い、きつい」という3Kのイメージが先行していますが、この払拭は絶対に必要だと思います。国民のために「大事なことをやっている」ということが伝わるような広報活動ですね。実際、造園連では、家庭の財布を握るのは主婦なので、今年はその主婦層に向けて女性誌に広告を載せるなどの「女性戦略」を考えているんですよ。

遠藤 ご存じの建設業の中枢は、現場にあります。建設現場に人が集まり、それぞれの専門家の英知の結集によって建築物が完成する。これが建設業の本来の姿であり、そのダイナミズムが大切だと思うんです。すでに高度経済成長期のように、どこにも安定的な仕事があるという状況にはありません。昔から職人さんは、一つの場所にとどまって仕事が来るのをじっと待っているのではなく、現場から現場に渡り歩きながら技能を磨きました。これからの技能者は、国内はもちろん世界に股をかけて現場を渡り歩いてほしい。若い人たちのためにそういった舞台を用意してあげることも、私たち世代の責任ではないかと思います。

――これまで皆さんのお話の中に、いろいろと振興基金のやるべき話も出てきたように思いますが、内田理事長はいかがお感じになったでしょうか。

内田 ものづくり産業としての建設産業の存亡が問われている状況ですから、構造改善センターだけでなく、業務一部・二部や試験研修本部も含め、人材の確保・育成の支援に、当基金としてどう関わっていけるのか総点検したいと思います。また、今日のお話を伺って、多くの方が、あちこちで、いろいろ考え取り組んでおられることがわかりました。こうした取り組みをつなげて、大きなうねりにしていく必要がありそうです。それぞれに把握している状況を共有する、そこから具体的な解決の方向をあぶり出す。そして、関係者に働きかけ、一つひとつ実現していく。そういう連携の輪に当基金も仲間として加わって、一緒に汗をかいていきます。

――本日はお忙しいところ誠にありがとうございました。

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