広報

建設産業における戦略的広報の推進

建設産業における戦略的広報の推進

芝浦工業大学工学部建築工学科 教授 蟹澤宏剛氏
(建設産業戦略的広報推進協議会 顧問)

「建設産業戦略的広報推進協議会」発足から間もなく1年。建設産業の魅力を発信する総合ホームページ『建設現場へGO!』をリリースし、ロゴマークが決定しました。業界の思いがひとつのカタチとなったいま、本格的な活動のスタートに向けて、業界広報を代表する3名の方々にこれまでの感想と今後の展開について伺いました。また巻頭では、協議会顧問である芝浦工業大学の蟹澤宏剛教授に「建設産業に求められる広報」について語っていただきました。


情報発信を通じて襟を正していくことが真の広報戦略的に「建設業のフェアトレード」を実現したい

外部へ向けた情報発信を通して建設業として襟を正す


建設産業戦略的広報推進協議会

 昨年8月に建設産業戦略的広報推進協議会(以下、協議会)は発足しました。一番良かったのは、業界内のさまざまな立場の方々が連携して、「一緒に情報発信をしよう!」となったことだと思います。「外部に向けてどういう情報を発信すればいいか」をみんなで話し合うことで、「建設業の魅力とは何か」について考えるきっかけになりますし、「何かを変えるには何をしたらいいのか」といった課題の探求にもつながっていきます。
 私がこの協議会で強く求めたいのは、外部へ向けた情報発信を通して建設業として襟を正すこと、自分たちの魅力を見つめ直すことです。協議会は、建設産業全体の中長期的な目標として「業界を挙げて取り組むべきこと」を考える場になったのではないかと思います。


日々の活動が広報の一部 広報をもっと広い意味で捉える

蟹澤 宏剛氏

 建設産業の各団体さんの広報活動を見ていて、気になる点がいくつかあります。ひとつは、情報発信が内向きであること。そのために、業界内にいる私でさえ各団体さんの会報誌をほとんど目にしたことがありません。もう少し一般の方にも読んでいただけるような工夫が必要だと思います。その点、『建設現場へGO!』では多種多様な情報が集まり、網羅的な情報収集に役立つ仕組みになっています。
 広報活動にもう一歩踏み出せていない団体さんにアドバイスするなら、「広報をもっと広い意味で捉えて、普段の行動が広報の一部だと考える」ということ。例えば工事現場では、近隣の方にご迷惑をかけているわけですから、現場周辺のゴミ拾いとか、子どもさんの通学路の誘導といった活動に率先して取り組む。作業着(ユニフォーム)も「一般の方に見られている」ことを意識して清潔なものを身に付ける……そういったことを含めて広報だと考えるのです。建設業が世の中に役立っている産業ということを見ていただく。日々の作業の中で誇れることがたくさんあれば、意識をしなくても発信できる情報は増えていきます。そういった環境づくりが大事だと思います。


左 道路クリーン作戦(群馬県建設業協会)  中 子ども けんせつ 110番(岐阜県建設業協会
右 『建設現場へGO! −見る、知る、働く、建設産業のJobポータル−』


「一般の目線」を気にして情報を提供していく

 最近では、お金をかけなくても効果的な情報を発信できるメディアがたくさんあります。SNSやブログ、動画サイトを利用するのです。例えば社内に高い技術を持っている重機オペレーターがいるなら、その「神業」を動画でアップすれば、重機マニアから注目されるかもしれません。あるいは会社のロゴマークやキャラクターのシールを作ってみてもいい。「工事現場の壁にかわいいステッカーが貼ってあった!」、「ヘルメットにかわいいシールが貼ってあるよね」などと女子高生の間で話題になることも考えられます。
 現場見学を実施するならば、「一般の方々の目線を気にすること」がポイントです。参加者が何に期待しているのかあらかじめリサーチし、それをお見せする。例えば、完成後のスッキリした現場よりも、仮設物が半分残っているような状況、プロセスに興味がある人は多いそうです。それなら、それを積極的に見せていけばいいのです。
 現場見学会に参加する人の多くが、建設現場は3Kと思っているでしょうが、最近の現場は「整理整頓が行き届いて、きれいで、安全で」そのギャップに驚くはずです。見学会終了後に「思っていたイメージと違った」という意見が多いと聞いていますが、これも立派な広報活動になるのです。


各種情報をきちんと開示できるような業界にすべき

 若者に対する情報発信では、「入社後にどんな仕事をするのか、その魅力はどういったものか」具体的な情報を提示することが大切です。就活サイトなどを見ると、「先輩のインタビュー」はありますが、日々の作業内容に触れたものはほとんどありません。作業環境や給料、ボーナス、社会保険などの情報をきちんと提示するにはそれらを完備しなければなりません。それを隠せば、若者も不安に思うのは当然。各種情報を開示できるように、業界全体で改善していこうということです。また現場の過酷さを十分に知ってもらうことも重要です。入職前後のギャップが大きく、入社から1年ももたずに辞めてしまっては何にもなりません。厳しさと魅力をきちんと伝えて、それでもいいと覚悟して入社してもらうのが本当の広報ではないでしょうか。
 若者へのアピールとしては、作業着(ユニフォーム)の見直しも一案。見た目や形から入ることも大事だと思います。諸外国を参考にしてもいい。例えば、韓国のゼネコンは洗練されています。トランシーバー入れが付いたフルハーネスの安全帯に、安全靴はブーツ型のものに揃えられて、機能美としても優れています。


目指すべきは「建設業のフェアトレード」

 「フェアトレード(公平貿易)」という言葉を聞いたことがあると思います。農産物を主な輸出品としている途上国は、相場の変動による過大なリスクを負い、さらに先進国の都合によって、不当に安い価格に抑えられていました。そこに登場したのが、「フェアトレード」という考え方です。「発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取り引きすることによって、生産者の持続的な生活向上を支える」仕組みです。
 同じように、これまでの建設業界は低賃金で人を雇い、安いコストでつくった建物を安く売って商売してきました。それでは産業としての発展は見込めません。アンフェアなトレードでつくった建物ではなく、フェアトレードで顔の見える人たちがつくった建物を、適正な価格で提供していく。そしてそれを消費者の方々に理解していただく。言うなれば「建設業のフェアトレード」です。このマンションは「フェアトレードでつくったから安心だ」となり、手放すときも相場より高く売却できる……そんな「現場認証」になればいい。そういった情報発信、広報活動はまさに戦略的にやらなければなりません。今後とも、そういった視点で取り組みたいと考えています。

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