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カンタン解説 建設業者のための建設工事請負関係判例

第6回 注文者の責めに帰すべき事由により仕事の完成が妨げられた場合には報酬は確保したい!

(財)建設業適正取引推進機構

 請負契約においては、仕事の完成・引渡しの後でなければ、報酬を請求することが出来ない(民法633条)とされている。そうだとすると、建設工事において仕事が未完成の状態で契約関係が終了した場合には、たとえ注文者にその責めに帰すべき事由があるようなときでも、請負人は報酬請求ができないのだろうか。

 今回紹介するのは、動力電気工事請負契約に基づく請負人の仕事は完成していないが、その原因は主として注文者の責めに帰すべき事由によるものであり、そのため契約上の信頼関係が崩壊し、請負人は契約関係の清算を望み、注文者もまた請負人による仕事の続行を期待しないような状況になった場合において、請負人の報酬請求権が認められた事例である。

事件の概要

 昭和51年2月、被控訴人㈱Y(注文者)は、工場に自動旋盤器25台の動力電気工事を施工する契約を、控訴人X(請負人)と締結した。完工期日における工事代金の定めはなく、㈱Yは、工事代金の一部15万円又は20万円を、それぞれ数カ月後を支払期日とする約束手形3通により支払い、工事代金の残額を工事完成時に支払うという約定であった。
 Xは、契約後直ちに着工・必要な配線工事を施工し、後は自動旋盤機25台が据え付けられれば、本件工事が完成するばかりになっていたが、㈱Yは、自動旋盤機3台を据え付け残りの22台を据え付けなかった。
 そこでXは、15万円の約束手形金の支払を求める訴訟を提起し、㈱Yには工事代金の一部として15万円の支払義務があること、工事を引き続き協議の上進行させることを確認する和解が成立した。
 しかしながら、その後も㈱Yが自動旋盤機を据え付けないため、Xは残工事を行うことができず、一方㈱Yは、納入済みの3台の自動旋盤機に関する動力電気工事をA電機工業社に別途依頼し完成させ、昭和54年頃工場を他に売却処分した。
1205_18_hanrei_1.jpg Xは、自動旋盤機25台の電気配線工事及び配電設備工事をほぼ終えたとして、㈱Yに対し40万円の手形金支払iを求めた。㈱Yは、Xが施工したのは配電設備に関する一部工事だけであり、15万円を和解により支払済みであり、また、Xに対し工事の続行を督促したがXは応ぜず工事は完成しなかったので、本件手形金支払の義務はないとして争った。

1205_18_hanrei_title_b.jpg

 主な争点は、次のとおりである。
 請負契約においては、請負人が仕事を完成しない以上、注文者は報酬支払義務の履行を拒絶することができ、特段の事情がない限り、注文者は当該報酬支払いの義務を負わないものとされている。しかしながら、請負契約が仕事の完成前に合意解除された場合には、請負人の請負代金債権は、未完成の仕事を注文者に引き渡し、あるいは後継請負人に引継ぎをしたときに出来高に応じた金額について、その弁済期が到来すると裁判所はいっている。(大判昭11・12・20法学11.719)
 そうだとすると、本件のような当事者間で合意解除されてはいないが、あたかも請負契約の合意解除があったと同視しうる場合においても、この判例の考え方により報酬支払請求が出来るのかという点が争点になった。

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 裁判所は、本件判決で、請負契約の合意解除があったと同視しうるような場合には、仕事の出来高が約束手形金額に達している限り、注文者は報酬支払義務の履行のため振出した約束手形金の支払義務を免れないものといわなければならないとの考え方を明らかにした。
1205_18_hanrei_2.jpg 控訴人Xは、各工事を完了し被控訴人㈱Yによる自動旋盤機25台の据付を待つばかりの完成直前の工程まで施工した。控訴人Xが手形訴訟を提起するに至ったが、控訴人X、被控訴人㈱Y間の請負契約上の信頼関係は既に崩壊していた。したがって、既に本件請負契約の合意解除があったと同視しうる状態にあるものといえる。しかも本件工事の出来高は約73万円相当であり、被控訴人㈱Y主張の手形及び約束手形金額合計額55万円を優に超えている。結局、被控訴人㈱Yには、注文者が報酬支払義務の履行を拒絶することを許容することができない特段の事情があるものというべきである。

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