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カンタン解説 建設業者のための建設工事請負関係判例

第11回 契約における約定に反した資材の使用には注意したい!

(財)建設業適正取引推進機構

 本件は、請け負った建物新築工事の請負残代金の支払をYがXに求めたところ、建築された建物の主柱に係る工事に瑕疵があること等を主張してXが争ったものである。この瑕疵の内容が争点になり、構造計算上居住用建物としての本件建物の安全性に問題はなくとも、特に約定された鉄骨が契約の重要な内容になっていたものと認められる場合には、この約定に反した鉄骨を使用して施工された主柱の工事には、瑕疵があるものというべきと判示されたものであり、建設工事の瑕疵の認定を行うに当たって参考となる事例である。

事件の概要

 Xは、D大学の学生向けのマンションを新築する工事を、建築業者Yに請け負わせた。Xは、本件建物が多数の者が居住する建物であり、特に、請負契約締結の時期が、平成7年1月7日に発生した阪神・淡路大震災によりD大学の学生がその下宿で倒壊した建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であっただけに、本件建物の安全性の確保に神経質となっていた。Xは、本件請負契約を締結するに際しYに対し、重量負荷を考慮して特に南棟の主柱については耐震性を高めるため当初の設計内容を変更し、断面の寸法300㎜×300㎜の鉄骨を使用することを求めた。Yは了承したもののこの約束に反し、Xの了解を得ないで構造計算上安全であることを理由として南棟の主柱に寸法250㎜×250㎜の鉄骨を使用して施工、平成8年3月26日にXに引き渡し、請負残代金の支払を求めた。これに対し、Xは、建築された建物の主柱に係る工事に瑕疵があること等を主張し、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権等と対等額で相殺するとして争った。

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1210_18_hanrei_1.jpg 建築された建物の主柱に係る工事が、瑕疵になるのか否かが、主な争点となった。
 民法634条は、仕事の目的物に瑕疵が有るときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる(1項本文)とし、また、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに損害賠償の請求をすることができる(2項)と規定している。
 この条文は、請負契約の本質として、請負人は、あくまでも瑕疵のない仕事を完成させる債務を負っていると解されることから、請負人の担保責任は、材料の瑕疵・工作が不完全である場合などに適用されるものであるとされる。
 この「瑕疵」について、客観的に建物として瑕疵があったわけではないが、特約で特別の品質の材料による建築を約束していた場合で、その違反が認められるときに、瑕疵担保責任が成立するのかが問題にされた。

■原審の判断

 Yには南棟の主柱に約定のものと異なり断面の寸法250㎜×250㎜の鉄骨を使用したという契約の違反があるが、使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから、南棟の主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできないと判示した 。

■上告人の主張

 原判決は誤りであって、破棄をまぬかれない。

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 本件請負契約においては、上告人X及び被上告人Y間で、本件建物の耐震性を高め耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法300㎜×300㎜の鉄骨を使用することが特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると、この約定に反して同250㎜×250㎜の鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には、瑕疵があるものというべきである。

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