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カンタン解説 建設業者のための建設工事請負関係判例

第8回 所有権の帰属に 関する約定がある 場合の請負代金の 確保については、 十分注意して おきたい!

(財)建設業適正取引推進機構

本件は、工場兼共同住宅の建築等を内容とする工事請負契約を締結した際に、「注文者は工事契約中契約を解除することが出来、その場合工事の出来形部分は注文者の所有とする」とのいわゆる所有権帰属条項がおかれていた結果、下請負人が自ら材料を提供して築造した出来形部分の所有権が、注文者に帰属するとされた事例である。
判決は、発注者未承諾の一括下請負における下請負人は、発注者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場の立つものに過ぎず、元請負人と異なる権利関係を主張しうる立場にはないとしており、発注者元請間の契約で定められた発注者の権利が、元請や下請など工事関係者側の内部事情によって変動し、発注者が代金の二重払いを余儀なくさせられるような事態が生じることを避けるという判断に基づいたものである。発注者未承諾の一括下請負は、建設業法第22条で禁止されており行政的には監督処分等の対象になるが、民事的効力について本判決は述べており、実務的観点から重要である。

事件の概要

1207_18_hanrei_1.jpg 上告人X(注文者)は、昭和60年3月20日A建設(元請負人)との間に、代金3,500万円、峻工期8月25日と定めて、本件建物を建築する旨の工事請負契約を締結した。この元請契約には、注文者は工事契約中契約を解除することが出来、その場合工事の出来形部分は注文者の所有とするとの条項があった。
 A建設は、4月15日本件建築工事を代金2,900万円、峻工期8月25日の約定で、被上告人Y建設と一括下請契約を締結した。A建設もY建設も、この一括下請負についてXの承諾を得ていなかった。
 Y建設は、自ら材料を提供して建築工事を行ったが、昭和60年6月下旬に工事を取りやめた時点では、基礎工事のほか、鉄骨構造が完成して、出来高は26.4%であった。
 Xは、A建設との約定に基づき、契約時に100万円、4月10日に900万円、5月13日に950万円、合計1,950万円をA建設に支払ったが、Y建設は、A建設が6月13日に自己破産を申告し、7月4日に破産宣告を受けたため、下請代金の支払をまったく受けられなかった。
 Xは、6月17日頃下請契約の存在を知り、同月21日A建設に対し元請契約を解除する旨の意思表示と共にY建設との間で建築工事の続行について協議したが、合意は成立しなかった。そこでXは、Y建設に工事の中止を求め、次いで本件建前(出来高)の執行官保管等の仮処分命令を得た。
 その後Xは、7月29日、Bとの間で本件建前を基礎に工事を完成させる旨の請負契約を締結した。Bは、10月26日までに工事を完成させ、代金全額の支払を受け、建物を引き渡し、Xは建物の所有権保存登記をした。
 Y建設は、建物の所有権確認や、出来高の償金をXに対して請求した。

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 主な争点は、次のとおりである。
■原審の判断
 本件建前の所有権はY建設に帰属するとして、XはY建設に対し、本件建前に相当する765万円を支払う義務があると判断した。
■上告人の主張
 原判決は誤りであって、破棄をまぬかれない。
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 注文者と請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが適当である。なぜならば、一括下請負の形で請負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものである。よって下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場の立つものに過ぎず、元請負人と異なる権利関係を主張しうる立場にはない。
 本件についてみると、上告人Xへの所有権帰属を否定する特段の事情がないことは明らかであり、上告人Xは、元請契約の約定により、元請契約が解除された時点で、本件建前の所有権を取得したというべきである。
 これと異なる判断の下に、価格相当額の償金請求を認容した原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があるものと言わざるを得ない。

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