永濱 健さん
プロフィール/岩手大学教育学部を卒業後、専門商社に入社。
その後、外資系半導体販売会社を経て、1999年に
介護マネジメント用ソフトの開発・販売を目的に会社を設立。
2001年より電気設備メンテナンス事業を展開。
ラナベイク株式会社(東京都中央区)
本 社 東京都中央区八重洲1-5-15 荘栄建物ビル6階
創 業 1999年
社員数 50名(グループ会社を含む)
●会社の概要
当社は、全国約1,400社の電気工事業者をネットワーク化し、スーパーやコンビニエンス・ストア、家電量販店や衣料品店、ホテルなど、あらゆる業種のチェーンストアの店舗の電気設備メンテナンスを主に手懸けています。現在、顧客数は、約400社です。
●ビジネスモデル発想のきっかけ
大学は教育学部で、国語の教師になるつもりでしたから、建設業界に関しては、まったくの門外漢でした。現在のビジネスモデルを構築できたのは、私が建設業界の人間ではなかったことも理由の一つかもしれません。きっかけは、起業化した時に手掛けたソフト開発・販売事業が行き詰まり、とにかく日々の生活費を稼ぐ必要があったため、電気工事の下働きで全国を渡り歩く生活を経験したことです。仕事の内容は、大手家電量販店の全国約200店舗の蛍光灯の安定器を交換する作業でした。訪問先の店舗では、小口の電気設備のメンテナンスに関し、発注や手配に時間がかかるという悩みを持っていました。建設工事は、通常、発注者から現場の職人さんに仕事が降りてくるまで幾重かの階層構造になっています。新規建設工事には有効なこのシステムも、私が経験したような小口の修繕工事であれば、もっとシンプルな形態の方が良いと感じました。現場の職人さんたちも、公共事業の減少で、めっきり仕事が減ったことを嘆いていました。職人さんたちは個々にみると、中小零細の電気工事業者ですが、全国ネットワークを構築し、単価が安いため、あまりやりたがる人がいない小口のメンテナンス工事に特化すれば、幾重もの階層を経ずに、チェーンストアから安定的に仕事が受注できるのではないか、チェーンストアにとっても、より短期間・低コストでサービスを受けられるはずで、両者にとってメリットがあるのではないかと考えました。思いついたら早速、このアイデアを各地の現場で知り合う職人さんたちに話し、携帯電話の番号を交換して回りました。
●ビジネスモデル=顧客ニーズの追求
ビジネスモデルというと、最初から確立されたものがあったように思われるかもしれませんが、すべてはお客様の求めるやり方に対応していった結果の産物なのです。
当社の第一の特徴は、お客様からのトラブルの連絡をコールセンターが受け、電気工事業者さんに仕事の依頼をするというものです。これにより、電気工事業者さんが、いったん現場に行って状況を確認する時間とコストをカット出来るわけです。一方で、お客様は電気設備のプロではないですから、コールセンターがトラブルの状況をきちんと把握しないと、間違った指示を工事業者さんにしてしまうことになります。そのため、コールセンターには、電気工事士の資格を持ったプロを配置しています。 また、当社は、365日24時間対応をしていますが、例えば、コンビニエンス・ストアなどでは、「電球が切れた箇所の売上減少率」とか「エアコンの設定温度の不具合時のお客さんの滞在時間と客単価減少率」といったことをデータ分析しています。通常のオフィスと違い、店舗にとって照明や空調のトラブルは、即、売上に直結するシビアな問題なのです。
全国一律価格も業界の常識からすれば人工計算して請求するのが当たり前でしょうが、「同じ工事内容なら同じ価格で当然。」というお客様の論理に対応した結果です。加えて、当社は、基本料金といったものは一切いただいていないので、まずは1店舗で試してから判断するということもできます。事業開始当初は、電気工事業者さんに仕事を依頼する件数が少ないことが起因して当社が実際に工事業者さんに払う1件当たりの費用が、お客様からいただく料金を上回ってしまうような「逆ザヤ」の連発も経験しましたが、この方式は、変えませんでした。
●ルール作りとシステム化
ある程度、ネットワークの規模が大きくなると作業開始前・終了後のチェックの仕方など業務のマニュアル化の必要性を感じるようになり、苦労しました。また、システム化には、結構な額の投資もいたしました。工事業者の手配は第1候補の協力業者に依頼メールを送り、一定時間返信がないと、第2候補にメールする仕組みを作ることで、「緊急メンテナンス」のニーズに即応しています。現場の状況もリアルタイムに写真で把握できるシステムを構築し、チェーン展開しているお客様の本部は当社のシステムにアクセスすることで各店の電気設備の状況を確認できる環境を提供しています。また、工事履歴をデータベース化して、店舗ごとにどのくらいのスパンで、いくら修理費用がかかっているのか、お客様と情報共有し、とても重宝されています。このようなことからメンテナンス事業はデータベース産業だとも思っています。
●顧客から学ぶ、工事業者から学ぶ
当社のビジネスモデルを構築していく上で、大手衣料品販売チェーンの「しまむら」さんとの出会いは非常に大きいものでした。「安定器が不具合になった時、各店長が最寄りの電気工事店に連絡する際に、例えば3分費やしたとしたら、永濱君計算してごらん。店舗数1,700店×3分で5,100分。年に3回あるとすると15,300分になるだろう。店長がこれに費やすコストを削減できれば、商品の価格を1円でも抑えることに繋がるのだよ。」というしまむらさんの経営方針にどう応えていくべきか、日々試行錯誤の連続でした。お陰様で少しずつ評価され、「“あの”しまむらと取引しているらしいが、話を聞かせてくれ。」という問い合わせもあって、新規顧客の獲得に繋がっています。
現場の職人さんたちにも鍛えてもらいました。こちらの指示で、現場に行ってみると持って来た部材が違う、それが夜中の2時なんてこともありました。職人さんからは、こっぴどく怒鳴られます。職人さんは、腕は良いけど、気に入らない仕事はしないというようなプライドの高い人が多いようです。事業開始当初は、人のやりたがらない仕事だけをやろうと、照明の交換のみに特化していましたが、作業は、店舗が閉店した夜間に行うことも多く、結構根気もいります。基本単価の小さい工事がメインなので、大きな受注に繋がることは少なく、職人さんたちのモチベーションを保つことに苦労しました。また、作業は、基本的には店舗の中ですので、挨拶など基本的な営業行為が必要なことを理解してもらうことにも苦労しました。しかし、思いもよらない様々な出来事が理解できたり、職人さんとの信頼関係を築くことができたのは、時にはお酒を交えたコミュニケーションなど現場での交流を通じて、多くのことを学ばせていただいたことが業績の確保に繋がっていると確信しております。
現在の協力工事業者のネットワークもお客様であるチェーンストアの店舗展開に合わせて構築していきました。お客様それぞれに出店戦略が違いますので、店舗の立地も全然違ってきます。かつては、タウンページなどで調べて、協力業者を開拓していきました。小口メンテナンスは、単価が安いため、エリアごとの需要と供給のバランスを考え、協力工事業者さんに供給できる仕事の量に気を配りました。地元の工事は、やはり地元の人間がやることが一番良いと思っています。当社が、チェーン展開する企業の本社に対し、営業をかけ、それによって各地域に仕事が回っていく仕組みです。本社を東京に置くお客様が多いので、当社も本社を長野から東京に移転しました。
事業が拡大できた理由は、お客さんと協力業者さんに、教えてもらい、鍛えてもらったからだと思っています。支えてきてくれた仲間や良き理解者のおかげです。当社もそれに応え続けてきましたが、創業の地であり、現在もコールセンターを置いている長野県民の勤勉な県民性も大きいと感じています。
●新たな事業展開
2011年から「スマートメンテナンス」事業を開始しました。スマートフォンを活用して現場で顧客情報、修繕履歴が把握できる、いわば現場カルテのシステム化です。発注者もリアルタイムに情報が共有でき、現場で追加作業が発生した際の決済機能も備えています。家電量販店の商品取り付け作業等で導入されています。
また、太陽光発電設備のメンテナンス事業も開始しました。例えば、メガソーラーになると、1日のトラブルで、かなりの金額の損失が生じます。今後、再生エネルギー関連の電気設備の監視・メンテナンス事業は、必然的に需要が増えてくると思っています。
経営のポイント
●中小・零細電気工事業者の全国ネットワークを構築
●業務、マーケットのターゲットを絞りビジネス化
●建設業界の常識にとらわれない顧客ニーズにあわせたビジネスモデルの追求
●積極的なITの活用
第17回建設業経営者研修のご案内
建設投資、とりわけ公共投資の大幅な縮小によって、建設業の経営環境は厳しさを増す一方である。建設業には、従来型の「請負業」的な経営体質から脱却し、時代の変化と地域や社会のニーズを捉えた新たなビジネスモデルの展開が求められている。今年度は「新しい建設業のかたち」をテーマに、有識者等による講演及びパネルディスカッション、懇親会を通じて、研修会参加者が、今後の経営戦略を考える上でのヒントを幅広い視点から探っていく。
日 時/平成25年2月4日(月)13:30~18:40
会 場/メルパルク東京 東京都港区芝公園2-5-20
対象者/中小建設業の経営者、経営後継者、経営幹部の方
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