高木座長
建設産業の核となるのは人です。しかし、現在、若年入職者の減少に直面し、中長期的にも少子高齢化の加速化等から地域の担い手不足が懸念され、将来にわたる社会資本の整備・維持管理及びその品質確保や、災害対応等を通じた地域の維持等に支障が生じる恐れがあります。このため、建設産業に係る担い手問題を中心とした重要課題の検討を行うべく、建設産業活性化会議を設置しました。建設産業が衰退してしまいますと、日本、そして地方が維持できなくなる。その意味で、大きな責任を感じながら、会議の座長を務めさせていただきました。
本年1月に建設産業活性化会議を立ち上げて以来、6月までに計7回開催させていただき、その都度、大変貴重なご意見を賜り、中間とりまとめを行うことができました。この中間とりまとめに当たって、建設産業の将来にわたる人材の確保・育成のためのさまざまな環境整備、生産性の向上など、建設産業の活性化に向けた今後の方向性や具体的な施策について、関係者の皆さまと認識共有ができたことは大きな成果であると考えております。
この中間とりまとめのポイントは大きく3つあると思っております。一つ目は、オールジャパンで建設産業を活性化させることが必要だということ。国、地方自治体、業界団体、個別企業、教育機関等が一丸となって建設産業の活性化に向けて取り組みを進めていくことが重要になります。二つ目は、スピード感。いつまでに、どの主体がどのように進めていくかを示すことが重要であり、工程表を作成し、より実現を促していきたいと思います。三つ目は、フォローアップ。どのように進捗してきたのか、現状はどうなのか、フォローアップしていくことも重要です。中間とりまとめで終わりではなく、進捗状況をフォローアップして、改善してまいりたいと思います。
中間とりまとめの中では、「今日から行動開始」というキャッチフレーズがありますが、これを実行していくに当たっては、一言、「覚悟がいる」という思いです。若い人に入職していただくことは、その人の一生を決めること、一生が左右されることです。若年者の方々に入職していただくには、我々としてもしっかりとした環境整備を進めていくという覚悟、そして業界の皆さま方のお立場でも、一人の若者を引き受ける、そして、その人の一生をより素晴らしいものにするのだという覚悟が必要であるということを、会議を通じて強く感じました。
建設産業の担い手確保・育成、活性化に向けて、是非、関係者の皆さま方に覚悟を持って取り組んでいただくことを心からお願い申し上げます。
毛利局長
南塚 現在の建設産業の大きな課題として、担い手の確保・育成が挙げられると思います。高齢化が進行する一方、若年入職者は減少しており、今後、建設産業の担い手が不足することが予測されます。このことについて、どうお考えでしょうか。
毛利 建設産業は、これまでの建設投資の減少などにより、厳しい経営環境にあったと思われます。その中で、建設企業が疲弊し、職人の労働環境なども悪化してきたと言えます。建設投資はここ数年増加しているものの、建設企業はまだ苦しい状況を脱したとまでは言えないのが現状だと思われます。また、建設業就業者は、平成25年において、55歳以上が約34%、29歳以下が約10%という構成となっていて、高齢化と若手の減少が深刻化しています。現状を放っておくと、将来的には、建設産業を担う人材が不足し、防・減災や社会資本整備などの社会の安心・安全に大きな支障を来すこととなりかねません。その意味において、担い手の確保・育成は建設産業における最も重大にして、解決に時間のかかる課題と言わなければなりません。
建設産業戦略的広報推進協議会の果たす役割はとても大きい
南塚 国土交通省は、これまでさまざまな対策を打ってきましたね。
毛利 将来の担い手を確保するということは、特に今の若い世代に建設産業に入ってきてもらう必要があります。そして、建設産業に若者が入職するため、また、離職者を減らすためにも、まずはなんと言っても建設産業で働く皆さんの処遇を改善し、将来への希望と誇りを持って仕事ができる環境を整えることが重要です。そのためには、建設企業が社会保険に適切に加入し、職人に適切な水準の賃金を支払っていくということが実現されることが第一歩です。国としては、社会保険未加入対策、公共工事設計労務単価等の積算単価の適切な設定や建設業団体等への要請などを通じて、これらを後押ししてきました。
また、若手が評価され、早期に活躍できるということも重要です。若いうちから責任ある仕事を任されていると実感でき、誇りを持つことにつながるからです。そのような観点から、若手技術者のみが参加できる工事の試行も行っていますし、また、本年度から土木施工管理技士など一定の職種の技術検定の受験資格について、求められる実務経験年数の短縮を行うこととしました。更に、マイナスなイメージを持たれやすい建設産業の正しいイメージを発信することも大切です。建設業振興基金が事務局になって活動している建設産業戦略的広報推進協議会の果たす役割はとても大きいものと思われます。
南塚 そのようにさまざまな対策を打って来られた中で、今年1月に建設産業活性化会議を設置されましたね。その目的は何でしょうか。
毛利 建設産業の担い手確保・育成の問題は、今後の少子高齢化の進行に伴う労働力人口の減少が予想される中で、その深刻さをより一層真摯に受け止めるべきと思います。行政や業界がそれぞれで対策を講じるだけでなく、関係者全員で取り組んでいくべき問題です。そこで、高木副大臣を座長、土井政務官を副座長として、業界団体や有識者の皆さまなど、関係者の代表が集まり、建設産業の担い手確保・育成についてヒアリングや議論を行う場として、建設産業活性化会議が設置されました。これまで7回開催し、真剣な議論の末、6月26日に中間とりまとめを行ったところです。
処遇を改善すること 誇りと将来性があること
南塚 中間とりまとめにおいては、中長期を見据えた対策の方向性や具体的な取り組みが示されました。これらについて教えてください。
毛利 まず最初に申し上げたいのは、今回の中間とりまとめは行政が作成したものとは考えていない、ということです。つまり、これは行政から業界への宿題といったようなものではなく、構成員全員が各々主体性を持って作成したものだと考えています。従って、中間とりまとめに記載のある取り組みは、行政が主体となって行うものもあれば、業界団体が主体となるものもある。そういう目でこの中間とりまとめを見ていただきたいと思います。
それを前提としてお話をすると、大きな方向性はこれまでの取り組みと変わるものではありません。やはり処遇を改善すること、誇りと将来性があることがまず大事です。これまでの取り組みの更なる推進に加え、週休2日制を実現していくことや7月1日に発表しましたが、建設マスター制度の若者版とも言うべき「建設ジュニアマスター」を創設するなど、処遇の改善や若者の能力の評価・活用を行っていくことが重要です。
その上で、きちんとした教育を受け、技能・技術を磨けるよう、教育訓練の充実を行う。これには、富士教育訓練センターの中核的教育訓練施設としての充実強化が必要です。
人材を採用するということは、企業にとっては長い期間にわたる投資になります。来年の仕事量がどうなっているか全く分からないというのでは、建設企業が人材を雇用することを躊躇してしまいます。そのため、維持管理など、今後建設産業に求められる役割を示していくとともに、我々行政としても、公共事業予算を、必要性をよく吟味しながら、安定的・持続的に確保していく努力が必要です。
また、これまで建設産業、特に現場は、女性にとって必ずしも働きやすい環境ではなかったかもしれませんが、それを変えていくことで、女性が持つ能力を遺憾なく発揮していただける環境を整備していきます。建設産業活性化会議の中間とりまとめに先立ち、太田大臣の号令のもと、国土交通省と建設産業5団体で「もっと女性が活躍できる建設業を目指して」という申し合わせを行いましたが、今後、女性に更に活躍してもらうための行動計画を官民で策定していきます。
主体性を持ってこの問題に一丸となって取り組む
毛利 これらを強力に推進しながら担い手を確保・育成していきますが、労働力人口の減少は避けられません。人材を確保するとともに、今よりも効率的に建設工事を施工していく必要がありますので、生産性を向上していくことも柱の一つに据えています。
南塚 なるほど。これは官民で作った中間とりまとめということですね。業界団体や当財団に今後期待される役割は何だとお考えでしょうか。
毛利 まずは、行政も含めて、主体性を持ってこの問題に一丸となって取り組むことです。その中で、やはり業界団体には、自らがその会員のため、ひいては業界全体のために何が必要かということを最も分かる位置にいるはずですので、自らがやれること、やるべきことは何かということを今一度考えていただきたいと思います。もちろん、行政としても協力は惜しみません。
建設業振興基金においては、やはり、業界全体をまとめるシンボリックな存在となることが求められているように思います。行政と業界を結び、業界と世間を結び、業界内を結ぶ。そういった役割が、今後ますます求められていくように思います。
南塚 我々もそう感じているところです。関係者それぞれの一層の努力が求められる局面になっていると痛感しています。本日はありがとうございました。