第1部の講演では、「中長期的な建設業支援の方向性と施策について」と題し、岐阜県県土整備部の飯島昭憲技術検査課長より「建設業で頑張ってみたいという後輩たちの良き道案内役になっていただきたい」、続いて、「人生の勝利者になる」と題し、岐阜県建設業協会労働委員会の永井建設(株)永井康貴社長より「建設業は、災害時の復旧活動や道路や橋の整備を通じて、地域の人々の生活になくてはならない存在であり、自らの仕事に誇りを持ってほしい」と、それぞれOBサポーターにエールが送られました。第2部では、当財団の内田俊一理事長をコーディネーターとして、3名のOBサポーターに岐南工業高校の中島教諭、永井社長を交え、「若者たちをどう支えていくのか」と題してパネルディスカッションを行いました。
会社に入ってから驚くことがけっこうあった
内田 今年度から始まった岐阜県のOBサポーター事業は、おそらく建設業団体としては初の試みではないでしょうか。若者が入社後に環境の変化や人間関係などで悩んだりしたときに、周囲に相談できる同年代の人が少なく、高校新卒で建設業に就職した人の約半数が3年以内の早期に離職する現状で、OBサポーターは、就職支援と若者の定着率向上において、非常に意義が大きい取り組みだと思います。それでは、まず、OBサポーターの皆さんから、建設業や今の会社を選んだ理由を伺いたいと思います。
永井 先生との相談で決めました。仕事や会社についての情報は、インターンシップで得られるものが大きかったですね。
正村 自分は家業の土木業を継ぐために選びました。就職してもいつかは辞めるので断られたこともありましたが、今の会社は「それでもいい」と言ってくれて、それが決め手になりました。
久岡 もともと建設業界で働きたくて、会社選びは先生の紹介を参考にしました。
内田 就職に際して迷うことはなかったですか。
永井 会社に入ってから驚くことはけっこうありました。特に業種の多さ。建設工事の種類は建設業法上で、2つの一式工事と26種類の専門工事に分けられますが、そんなにたくさんあると知らない学生もかなり多いと思いますよ。
久岡 私は施工管理という仕事に就いていますが、学生時代、施工管理がどんな仕事かイメージできずに少し悩みました。
永井社長 それは分かります。現場監督は工事現場で作業するイメージがありますが、実際は事務仕事の時間が多い。就職後に思っていた仕事内容と違って悩む人が少なくないと聞いています。
就職後に感じた不安ややりがい
内田 就職後に、理想と現実の違いからストレスを感じたりしませんか?
永井 政治の影響を受けやすく、仕事量が不安定な点が気になります。その中で自分がどう役立てるかといった不安もあります。今は仕事に集中するしかないと感じています。
正村 CAD図面の調整とか見積書の作成、役所との打ち合わせなど、自分にできるか不安に思うこともあります。
久岡 体力には自信があったのですが、思ったよりも頭を使う仕事が多いというのが実感です。年齢の割には責任の重い仕事も多く、同世代の友人に比べても、やりがいを感じる部分は大きいと思いますよ。
内田 中島先生は、建設業界に就職した生徒さんをフォローしていらっしゃると思いますが。
中島先生 卒業生が学校に遊びに来ることがあれば必ず声をかけてリサーチします。厳しくとも、愛情を持って育てれば子どもたちはついてきますよ。彼らと話していると、愛情がある会社かどうかはすぐ分かります。愛情のない会社はイコール離職率の高い会社ですから、そういったところに子どもたちを送ることはないですね。
3Kのイメージだが、「楽しく」「面白い」仕事
内田 OBサポーターの皆さんは後輩たちにどんなことを伝えようと思っていますか。
永井 高校生にとって実際に現場で働いている人の話を聞くことは非常に有意義だし、役に立つと思います。高校生の声に耳を傾けて、彼らが疑問に思っていること、不安に感じていることを解消してあげたいですね。
正村 建設業は“3K”「きつい」「汚い」「危険」というイメージですが、それ以上に、この仕事には「楽しく」「面白い」ことも多いです。例えば、建設業の現場にはさまざまな職種の人たちが出入りし、独自の技術を駆使し、力を合わせて一つの建造物を完成させます。毎日違った作業と、新しい人との出会いがあり、学ぶべきことも尽きません。そんな建設業の魅力をしっかり若い人たちに伝えていきたいと思います。
久岡 まだまだ未熟な自分ですが、一人でも多くの後輩たちに自分が経験してきたことを伝えていきたいし、それが自分の成長にもなると考えています。個人的には、来年、2級土木施工管理技士の資格取得に挑戦します。そんな自分の姿も後輩たちに見せていきたいと思います。
今こそ社長たちの 決意が問われている
内田 OBサポーターの方々はこれからいろいろと仕事も増えて、大変なこともあると思います。そんな彼らに、永井社長と中島先生からアドバイスをいただけますか。
永井社長 今までは先輩からアドバイスを受ける側だったと思います。でも、これからは後輩にアドバイスする立場になるわけですから、それなりに示しをつけて、より一層レベルアップを目指してほしいですね。今までやってきた同じ仕事でも、仕事の質が違ってくるはずで、それを意識することが大切。それが自分自身のレベルアップにつながるわけですから。このOBサポートの仕組みを上手に使って、後輩のレベルアップと同時に自分のレベルアップを図ってもらえるといいと思います。
中島先生 私ごとで恐縮ですが、私は小学生の頃に父を亡くしたもので、それ以降の人生で知り合った先輩たちの背中を眺めながら成長してきたように思います。先輩方がどんな生き方をしているのか、それを見ながら勉強しました。その意味でも、後輩にとって先輩の存在は大きいと思います。OBサポーターの皆さんには、後輩とできるだけ言葉を交わして、コミュニケーションを図ってほしい。心で思うのではなく、声に出して語りかけてください。そして、良き理解者としてサポートすることが大切だと思います。
内田 ありがとうございます。若者の意識調査などからは、「当面の夢を諦めることで、とりあえず現状に満足している」一方で、「内面では、大きな不安を抱えている」ことが分かります。そんな彼らに呼びかけるのであれば「君の一生を引き受ける会社だから、安心して入ってこい!」と、背中を押す言葉が必要だと思います。OBサポーターの皆さんが後輩たちに、力強く呼びかけるためにも社長さんたちの決意が問われているのではないでしょうか。本日は長時間、ありがとうございました。