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地域建設産業の現状[中部・北陸地区]

地域建設産業の現状[中部・北陸地区]

(社)岐阜県建設業協会 会長 小川 弘
(社)富山県建設業協会 会長 近藤 駿明
(一財)建設業振興基金 理事長 内田 俊一

 日本各地の建設産業の現状を取材し、お伝えする「地域建設産業の現状」シリーズ。3回目の今回は、中部・北陸地区を取り上げます。巻頭インタビューでは、岐阜県建設業協会の小川会長、富山県建設業協会の近藤会長のお二人に、地域の建設業者の現状や抱えている課題などについてお聞きしました。

 

 

「道路は通れて当たり前」と思っている人は多い「当たり前」にしているのが、建設業者

努力を発信、認識されている企業だけが生き残れる

富山県建設業改革推進プラン(クリックで拡大)

富山県建設業改革推進プラン

内田 富山県は地形も複雑ですし、県内でも土地柄がいろいろ違うように思うのですが、協会の支部はいくつあるんですか? また、会長としての協会運営方針はどのようなものですか。
近藤 入善、魚津、立山、富山、高岡、砺波、氷見、小矢部の8つです。昔の土木事務所のエリアが支部の範囲となっています。
 私が会長に就任した時から、会員の皆様には協会が何かをしてくれるものと期待してもらっては困ると申し上げて参りました。自社をどうやって守り、攻め、そして発展させていくか、それは企業自ら考えることで、行政や協会から与えられるのを待つだけでは生き残れないと話しております。
内田 確かにおっしゃるとおりです。
近藤 地域に必要とされる企業は、企業努力をきちんと発信し認識されることが大切であり、そのことが存在意義にも繋がります。そして、そのことを実践できる企業だけが生き残れるはず。そのためには経営者も従業員も、それぞれの立場で高いモチベーションを持って仕事に臨むことが欠かせません。もちろん、協会としては、予算確保や制度改正などに関する業界全体の課題や要望については、行政に働きかけることは言うまでもありません。

 
内田 発注の仕組みが複雑になり、建設業界の経営も厳しくなりました。今まで以上に県との関係が重要ですが、その点はどうですか。
クリックで拡大近藤 県にはよく業界の意見を聞いてもらっています。現在、我々が取り組んでいる富山県建設業改革推進プランも、協会からの要望により県から補助金をいただいて作成したものです。このプランは、企業や協会の取り組みと、また、それを補完する形での行政などによる環境整備の取り組みとで相乗効果を高め、健全な建設業として存続でき県民の社会経済活動に寄与することを目指しております。そういった点では県がでは、制度改正などを行う際にはこのプランを参考にするなど、官民連携しプランの推進を図っています。
内田 それは素晴らしいことですね。
近藤 富山県では8つの支部の会員と直接意見交換を行う場を年2回設け、制度や施工方法などに関する課題について相互理解を深めています。県が主催し、協会との意見交換会を定期的に開催しているケースは珍しいのではないでしょうか。建設業は災害時の対応、インフラの維持管理の問題など、あらゆることに関わっているでしょう?その業界が沈滞化すると県民全体に大きなマイナスになりますからね。

 

中山間地域の除雪や緊急事態への対応が困難に

内田 仕事の現状はどうですか。
近藤 一番問題なのは、中山間地域の除雪を含め緊急事態に対する迅速な対応が徐々に難しい状況になってきていることです。建設業者が激減した地域では、人も重機も確保できないので、当然ながら災害対応もできません。
内田 それは深刻ですね。
近藤 除雪業務にかかわる道路の状況などは、その地元の方々が一番詳しいわけですから、やはりその地域に密着した建設業者に頼らざるを得ないわけです。そういった企業が健全に経営できていないと、いろいろなところに支障が出ます。業界には、地元に密着し地域貢献活動を頑張っておられる方々も大勢いますが、公共事業の削減の影響で、人員を減らしたり重機を手放したりして体力的にものすごく消耗しました。


 


近藤会長

内田 除雪については後ほど詳しくお聞きします。予算についてはどうでしょう。
近藤 H25県土木部予算は、697億円でピーク(H9:1,185億円)の59%まで落ち込んでいます。この金額には、北陸新幹線の地元負担金も含まれていることから、新幹線工事終了後にその予算が削減されるのではないかと危惧しており、我々としては、防災減災対策や今後増加が予想される維持改修費用へ充てるなどの、予算の確保について要望しているところです。さらに、国や県には中長期ビジョンを示してもらい、一定量の仕事を継続的に出していただきたい。それに加えて利益の出る構造作りが必要です。現在は、残念ながら利益が出にくい構造になっています。この背景にはダンピングが繰り返されてきた経緯があります。
内田 根が深い話ですね。
近藤 我々にも問題はあります。しかし、そこには予算が削られる中で生き残りをかけなければならないとの事情もある。その結果、予算がどんどん削られて1件当たりの工事金額は小さくなり、利益が出にくくなった。
内田 会社にある程度の体力があった時代にはダンピングをしてでも仕事を取れていたものが、今はそれができないということでしょうか。
近藤 そうです。それと積算価格と市場価格との乖離があります。これは宿命的なもので、値上がりと同時に単価を上げることが物理的に不可能であることは、私どもも理解してはいますが。

 

発注の仕組みを含めた議論が必要

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内田 指名競争から一般競争入札へと変わりましたね。
近藤 ええ。
内田 この制度は本来、入口の規制を除き自由競争させると同時に、仕事の履行状況を発注者がきちんと確認する体制を充実させなければならない。その分発注者の経費負担も増えるわけですが、これによって初めて価格と品質のバランスが取れる仕組みだと思います。ところが実際には、確認体制の拡充どころか発注機関の技術者は逆に減らされてしまった。公共事業の品質を確保という観点を重視した発注の仕組みが必要ですね。
近藤 もうひとつの問題は、発注者側の予算や積算が絶対という前提のもと、物事が進んでいることです。かつて発注者は、デスクで図面を引いて積算をされていました。その人たちが現場に出て、現場代理人とコミュニケーションを取り、工夫をしながら良いものを作ろうと努力したものです。ところが今、発注者は設計も積算も全てコンサル任せ。挙句の果てには、コンサル同士の競争も起きているわけです。
内田 マスコミへの対応はどうされてますか。
近藤 私はマスコミに対して、建設業の良い面を一般読者にアピールするような報道にしてほしい、とお願いしています。建設業はこんな取り組みで頑張っています、とほんの一行でも書いていただけると、読み手にとってはかなりのインパクトになる。地元紙の記者の方とお話をさせていただく際には、「まず、建設業に対するあなた方自身の先入観を捨ててください」とお願いしています。県民の方々は、何の苦労もせずに空気や水が手に入るのと同じように「道路は通れて当たり前」と思っているでしょう?逆に言えば、当たり前にしているのが我々の仕事なのです。

 

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