歴史資料

入札契約制度の変遷

入札契約制度の変遷

国土交通省  日原 洋文 前 建設流通政策審議官
(一財)建設経済研究所 客員研究員  六波羅 昭
愛媛大学防災情報研究センター  教授 木下 誠也
(一社)長野県建設業協会  会長 藏谷 伸一
(社)宮崎県建設業協会  会長 永野 征四郎

激変する入札契約制度

平成6年90年ぶりの大改革から平成17年品確法の制定

 平成3(1991)年、埼玉県発注工事に係る入札談合、埼玉土曜会事件が摘発され、翌年、排除勧告があった。さらに平成5年には、宮城県、茨城県知事などが逮捕されるゼネコン汚職事件が発生し、公共工事の執行に対して内外から厳しい視線が注がれるに至った。平行して進められていたGATT政府調達交渉も平成5(1993)年12月に妥結し、厳しい環境のなか中建審で入札・契約制度改革についての建議が行われた。そして翌月、平成6(1994)年1月に「公共工事の入札・契約手続きの改善に関する行動計画」が閣議了解された。この行動計画が一般競争入札の原則に立ち戻る国のレベルの公共調達制度の90年ぶりの大改革となったのである。GATTの後継組織としてWTOが設立され、平成8(1996)年1月から政府調達協定が発効した。
 一方で、公取委は摘発方針を強化しており、入札談合がやりにくい状況だったにも関わらず、極めて多数の摘発が行われている。この時期、元建設大臣のあっせん収賄事件の後、平成13年には「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入札契約適正化法)」が施行された。この法律は入札契約制度の透明化の促進、入札談合への厳格な対処などとともに、地方公共団体に対して抜本的な入札契約制度の改革を促すものである。
 この法律に基づき発注者ガイドラインとして適正化指針を作り、これで地方公共団体に調達制度運用の抜本改革を迫ることになった。入札契約の透明性確保の一環として適正化指針において予定価格の公表を挙げている。国の場合は会計法にしたがって予定価格の公表時期は開札の後であるが、地方の場合は地方自治法に規定がなく、予定価格の事前公表も可とされた。公共団体にしてみれば、事前公表によって組織内部から談合関与者を出すことへの予防措置になる。一方でロアリミットを公表することにもなり、いわゆるくじ引き落札が多発した。場合によっては談合をやりやすくするといった意見もあった。
 平成17(2005)年、公共工事品質確保法(以下、品確法)が施行された。同法は、落札価格の低落にともなう公共工事の品質不安に対処するための立法措置であり、「価格及び品質が総合的に優れた調達」を基本理念として掲げ、総合評価落札方式を基本的な落札方式にしようという意図がある。
 総合評価方式の本格導入へのプロセスを見ておこう。国土交通省の直轄工事における総合評価方式の実施状況は、平成11(1999)年度(2件)以降試行されてきたが、13年に財務省との包括協議がまとまり個別の協議が不要になった。17(2005)年度から全契約金額の4割以上を目標としたが、18(2006)年には8割以上、20(2008)年度からはすべての工事に適用と急速に拡大してきた。

  公共工事に係る入札談合の独禁法による措置件数  (年度)
平成 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
件数 4 6 6 14 2 12 8 8 6 9 16 7 19 12 6 2 1 0 3 7 4

 

公共工事の品質確保の促進に関する法律(公共工事品確法、平成17年4月施行)の概要

 公共工事品確法の最大の特徴は、公共工事の調達を従来の「価格のみの競争」から「価格と品質」の両面からの競争に転換することを打ち出したこと。価格と品質が総合的に優れた調達とするため、発注者は、その責務として
① 個々の工事で入札に参加しようとする者の技術的能力の審査を実施しなければならない
② 民間の技術提案の活用に努める
③ 民間の技術提案を有効に活用していくために必要な措置(技術提案の改善を求める措置、技術提案の審査結果を踏まえた予定価格の作成等)を実施
などについて規定している。
 これと同時に、発注者による監督、検査、技術審査などの適切な実施を義務付けるとともに、発注者自らそうしたことが実施できない場合は、必要な能力を持つ者の活用に努めることも盛り込んでいる。

 

平成18年改正独禁法施行以降

 平成18(2006)年1月から改正独禁法が施行になった。主要な改正点は、課徴金の引き上げ(6%から10%)、公取委に犯則調査権限が付与され、裁判所の令状をとって強制立ち入りができるようになったこと、課徴金の減免制度、リーニエンシーの創設である。これは極めて大きい影響を及ぼしている。主要な建設業団体は同年4月、旧来のしきたり(入札談合)からの決別宣言を公表した。
 同年に福島、和歌山、宮崎という3つの県で知事が逮捕されるという事件が発生し、12月に全国知事会が「公共調達改革に関する指針」を発表。官製談合の防止、一般競争入札の拡大(1千万円以上を一般競争)、総合評価の拡充、情報公開などかなり厳しい内容になっている。
 改正独禁法施行以降、課徴金減免制度、いわゆるリーニエンシーの申告件数は、最初の平成18年1月から3月の3カ月間で26件。平成18年1月から25年3月末までで合計725件に上っており、談合システムの弱体化がうかがえる。
 ダンピングも大きな問題になってきた。ダンピングについては、平成16年に長野県発注工事について初めて公取委が独禁法違反(不当廉売)として警告処分にしている。その後引き続き国交省と栃木県等の発注工事5件について警告処分とした。発注サイドの対応としては国交省が平成18年12月に「緊急公共工事品質確保対策」を公表し、具体的な一定基準以下の落札案件に対して厳格な重点調査を実施。さらに平成20年3月に「公共工事の品質確保の促進に関する関係省庁連絡会議申し合わせ」として「公共工事の品質確保に関する当面の対策について」を決定し、この中でダンピング対策を含む入札制度に関して、①総合評価方式の徹底、②不良不適格業者の排除、地場産業育成、下請企業等へのしわ寄せ防止、③契約等の対等な関係の構築などを示している。平成21年4月には中央公共工事契約制度運用連絡協議会が低入札価格調査基準及び最低制限価格の設定範囲をこれまでの「2/3から8.5/10」から「7/10から9/10」へ引き上げるなどの改正を行った。
 さらに平成23年度からは、この設定範囲の中で調査基準価格の計算方式における現場管理費及び一般管理費等の上方見直しを行っている。

むすび

 入札契約制度は、前表のような変遷を経て平成20年度には、国土交通省の発注工事すべてが原則一般競争入札となり、1件6千万円以上は総合評価方式となった。指名競争から一般競争への回帰が明治33年以来108年経ってひとまず完了したといえる。
 地方公共団体では対応がさまざまで幅があるものの、やはり改革の到達点に達したといえるだろう。一般競争総合評価方式の時代に入ったわけだが、発注者側、受注者側ともこの新たな市場に対応するための問題に挑戦していく必要がある。
 発注者側は、事務的な負担力などの問題、地元建設産業の経営力・技術力維持の問題を抱えている。受注者側は、建設技術者・技能者の確保育成の問題、過度になりがちな競争市場においていかに利益を確保して企業の持続的な経営力を保持していくかという困難な問題がある。ここに見た変遷の歴史が変化、改革には終着点がないことを雄弁に語っている。
 新たな制度が施行されて数年が経過すれば、受注側にも発注側にも制度の弱点を突いて自己の利益を取る者が出現する。そして経年とともに制度は陳腐化しほころびが拡大し、改革を必要とするに至るのである。制度設計者は、制度の狙いと実態のかい離を常に把握し、次のステップを用意するP-D-C-Aのサイクルを繰り返すことが求められている。

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