歴史資料

入札契約制度の変遷

入札契約制度の変遷

国土交通省  日原 洋文 前 建設流通政策審議官
(一財)建設経済研究所 客員研究員  六波羅 昭
愛媛大学防災情報研究センター  教授 木下 誠也
(一社)長野県建設業協会  会長 藏谷 伸一
(社)宮崎県建設業協会  会長 永野 征四郎

 

 

入札契約制度の現状と今後の展望

 わが国の入札契約に関する法制度は、フランス、イタリア、ベルギー等の国家会計法に習って1889年に明治会計法として定められたのが最初である。それ以来次に示す入札契約制度の枠組みは今も変わっていない。
第一に、一般競争入札を原則としていること。
第二に、国の会計法規の中で同一の条文に「売」と「買」を基本的に同じ取扱いとして定めていること。
第三に、交渉手続きを定めていないこと。
第四に、価格の制限(予定価格)を必ず定めることとしていること。
第五に、落札基準は最低価格とすることを原則としていること。

 このうち第五については、2005年に公共工事品質確保法が制定され、公共工事の落札基準は品質と価格の総合評価を原則とすることとなった。
 交渉手続きは、フランスにおいては1882年に通達により導入され1964年公共調達法典に定められた。イタリアでは、1972年に改正された国家会計法に競争方式と並ぶ手続きとして交渉方式が定められた。海外では今では入札契約制度に交渉手続きを規定するのが通常であり、かつてわが国と同様の入札契約制度を有していた韓国や台湾においても、現在は交渉手続きを定めている。
 価格の制限(予定価格)に関する規定は、フランス及びイタリアの国家会計法に当時存在したが、予定価格を必ず定めるという厳格なものではなく、今ではこのような価格の制限はない。
 また、西洋で数百年にわたって主に用いられていた一般競争入札は、今や主流ではなくなりつつある。一般競争入札は、入札段階では客観性・競争性を確保しやすい方式であるが、契約後に受注者からの変更増額要求により最終的に価格が大幅に増加したり、契約工期が守られず工事の完成が遅れるなどの弊害が目立った。イギリスでは戦後、一般競争入札から指名競争入札や交渉方式への移行が進んだ。フランスでは、2001年に公共調達法典から価格競争である一般競争入札の規定が削除され、提案募集方式が中心となった。(表1~3)



 さらに西洋では、複数年にわたる一定期間内の発注予定案件に関する受注者・契約金額の決定方法、契約条件等に関して実績のある企業(群)と包括的に協定を締結して個別案件毎に指名競争入札や随意契約を行うというフレームワークアグリーメント方式の適用が拡大している。
 わが国では、1993年のゼネコン汚職以来、指名競争入札や随意契約の適用を減らし一般競争入札の適用を拡大することにより、入札段階における競争性を強化することを重視してきた。しかし、西洋ではむしろ、古くから日本の商習慣であった過去の実績重視や長期の良好な取引関係重視の方向で入札契約制度の改革が進められている。
 わが国においては、法令で一般競争入札適用の原則が規定されていても、実際は長年にわたって指名競争入札を多用するなど、法令が実情に合致しない場合でも、わざわざ法令を改正せずに、運用面で弾力的に工夫するという傾向が強かった。しかし、近年不祥事が起きるたびに法令を建前通りに適用することが求められるようになり、今は法令に従い一般競争入札を主に用いるなど、100年以上前に定めた法令の枠組みに厳格に従わなければならなくなった。このため実情に即していない法令を適用することが、最近になってさまざまな問題を顕在化させている。たとえば、交渉手続きがないため技術力を重視した企業選定が困難であったり、多様な調達方式が用意されていないため過当競争が生じやすかったり、価格の制限すなわち予定価格による落札価格の上限拘束のため入札不調が起きやすいといった弊害が生じている。
わが国においては、効率的で質の高い公共事業執行のため、さらには建設産業と技術の健全な発展のため、海外の先進事例を参考に、交渉手続きの導入や予定価格制度の見直しを行い、「買」すなわち公共調達のための法制度を確立してわが国の実情に即した公共事業執行システムを再構築することが求められる。(図1)

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木下誠也著
「公共調達研究」
日刊建設工業新聞社発行
(2012年6月9日)

 

 

 

 

 

 

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