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建築工事の調達方式 —これまでの経験に学ぶ—

第4回|会計法令が決める 調達制度の堅い 枠組み(その2 予定価格)

現代建設けいざいラボ主宰 六波羅 昭

 1889(明治22)年の会計法制定時に予定価格制度が会計規則(勅令第60号)に規定された。①価格を予定し、その予定価格を封書とし開札場所に置くこと、②誰も予定価格の制限に達しないときは直ちに再度の入札をすることができる、の2点である。会計法制定時の欧州調査で「価格を予定する」規定がみられたこと、当時は政府の直営工事が中心で高い積算能力を発注者が有していたことなどから予定価格制度を規定したと考えられる。1961(昭和36)年の会計法改正時に予定価格の上限拘束性を明確に法律(会計法)に規定した(第29条の6)。上限拘束性とは、落札者の決定にあたり予定価格の制限の範囲内であることを条件とするもので、現在の欧米には例のない制度である※。

01 予定価格制度の機能  予定価格制度の機能としては次が挙げられる。

1.予算管理機能
 歳出の原因となる契約は、歳出予算、国庫債務負担行為等による負担権限に基づいて行われなければならないから、その負担限度内において契約するために、予定契約金額の限度額を定める意味を持つ。しかし、予算の限度内に納めるために、個々すべての契約について上限額を決めて管理する必要があるとはいえない。

※フランス、イタリアなどの公共契約法の場合、かつては「価格を予定することができる」規定があったが、すでに廃止され現行法令にはない。

2.適正契約価格担保機能
 市場の実態を反映した適切な価格の範囲内で最も経済的な調達をするために、適正かつ合理的な価格を積算し、これにより入札価格を評価する基準としての意味がある。ただし、入札価格は個別の事情を反映しており、予定価格と乖離していてもそれだけで正当性を失うことはない。ましてや、予定価格をわずかに上回っただけで失格となる上限拘束性を説明することはできない。

3.入札談合による損害防止機能
 適正かつ合理的な積算に基づく予定価格の範囲内で契約することにより、談合による価格の引き上げが制約され、発注者の被る損害が軽減される。しかし、談合があっても発注者に大きな損害を与えることはないとする考え方が、談合システムを長く存続させた要因の一つであることに留意が必要である。

02 総合評価方式における予定価格の問題点 1961(昭和36)年の会計法改正により第29条の6第2項に「価格その他の条件」を落札基準とする特例が規定された。
 この場合、具体的な手続きは財務大臣と各省庁の長との協議によって定められる。2000年3月に各省庁との包括協議が完了し、工事ごとの個別協議は不要となった。包括協議結果の骨子は次の3点である。


①入札価格が予定価格の制限の範囲内であること

②価格以外の要素に係る提案が全ての評価項目に関する最低限の要求要件を満たしていること

③評価値が基準評価値を下回っていないこと

 この特例は、単に価格のみによっては落札者を決定することができない場合を想定したもので、工事発注方式としては総合評価方式、設計・施工一括発注方式などが該当する。仕様、設計などが未定で法令が規定する予定価格の作成は不可能であり、法令も予定価格の作成を要求していない。
 しかし、包括協議の結果、予定価格の作成を必要条件とした。このため、総合評価方式では、技術提案などの審査結果を踏まえて仕様、設計などが決まった後で予定価格を作成することとなった。
 2005(平成17)年に制定された公共工事品質確保法では、高度な技術提案等を求めた場合は、技術提案の審査の結果を踏まえて予定価格を作成することを規定した。また、今年6月に成立した公共工事品質確保法の改正(第18条)では、新たに制定した交渉方式の場合についても、技術提案の審査及び交渉の結果を踏まえて予定価格を作成することとしており、予定価格作成への強いこだわりがみられる。技術提案が適切に評価されているにもかかわらず、上限拘束性を持つ予定価格を設定することにどれだけ意味があるのか疑問が残る。

03 予定価格の公表  国の場合、予決令第79条は、予定価格を記載した書面をその内容が認知できない方法により、開札の場所に置かなければならないと規定し、事前公表を禁じている。
 一方で、地方自治法にはこのような公表に関連する規定はなく、予定価格の公表の取扱については、国と地方で大きく異なっている。



■公共工事入札契約適正化法に基づく適正化指針における
 予定価格の公表に係る記述の主旨

・国の場合
 予定価格を入札前に公表すると、①競争が制限され、入札価格が高止まりになること、②建設業者の見積努力が損なわれること、③談合が一層容易に行われる可能性があることから、事前公表をしないこととしており、契約締結後に、事後の契約において予定価格を類推させるおそれがない場合において、公表するものとする。

・地方の場合
 法令上の制約がないことから、各団体において適切と判断する場合には、事前公表を行うことができるものとする。

■予定価格の公表の状況

 毎年行われている公共工事入札契約適正化法の実施状況調査結果によれば、予定価格の公表に関しては次の傾向がみられる(2012.9.1現在)。
●国及び特殊法人等では予定価格の事後公表にほぼ統一されている。
●都道府県の36%、指定都市では30%が予定価格の事前公表を実施している。これらの団体では、一般競争入札の対象範囲の拡大が進んでおり、また、最低制限価格制度を採用している団体がほとんどであるが、最低制限価格の事前公表を実施しているケースは減少して少数になっている。
●市区町村では、予定価格の非公表団体が急速に減少し、事前公表団体が44%と多いが、事後公表団体(31%)が増加している。

04 予定価格制度と不公正な取引 談合グループからみると予定価格の事前入手は大きなメリットにつながる可能性が高い。そこに官製談合への強い誘因が発生する。上記の適正化指針をうけて、職員による談合関与をおそれる地方公共団体では、事前公表に踏み切る団体が続発した。
 しかし、予定価格の事前公表により談合が一層容易に行われる可能性がある。上限拘束性を持つ予定価格制度のもとでは、入札談合を成立させるためには予定価格を事前に入手したい。したがって事前公表は、官製談合防止の効果はあるとしても、他方で入札談合を一層容易にする可能性がある。
 これに対応するために一般競争入札方式の対象工事を拡大するなどの方策がとられているが、結果として、最低制限価格を採れば抽選入札の多発、そうでなければダンピングが頻発するという競争入札方式の扱いにくさに直面することになり、一般競争入札と総合評価落札の組合せが一つの着地点になっている。

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