公共施設の調達方式は本来多様性に満ちている。調達方式の選択は、まず事業形態の選択から始まる。選択肢は、自ら求める性能を明確にして、以後のプロセスは外部に委ねる「性能発注」と、仕様まで確定して工事発注する「仕様発注」とに大別できる。性能発注の場合、発注者は求めるサービスの量と質(アウトプット仕様)を明確にして、サービス提供の仕組みおよび建設・運営の相当部分を外部の民間事業者に委ねる。仕様発注の場合、発注者は内部組織(設計外注を含む)で仕様(インプット仕様)を確定して工事施工を外注する。したがって、外部調達範囲は性能発注よりも狭くなる(図1)。
事業形態とともに外部調達の範囲と内容が決まれば、次は受注者決定のための適切な受注者募集・決定方式を選択することになる(図2)。
図1 事業形態と期待される成果
図2 代表的な受注者募集・決定方式と期待される成果
国の調達制度を決める会計法は、1889(明治22)年の制定以来、一般競争入札を原則とし、指名競争入札および随意契約を例外的なものとして、この三つの方式のみによる運用を求めてきた。地方公共団体に関しても地方自治法第234条にこの三つの方式によることが定められている。
調達条件の技術的な高度化、複雑化にともない、従来の枠組みでは対処が困難なケースがみられるようになり、次のように会計法令の堅い枠組みを拡げる仕組みが整備されてきた。
❶ 会計法の落札基準の多様化
1961年改正によって規定された第29条の6第2項は、最低価格によらずに「価格その他の条件」が国にとって最も有利なものを落札者とすることができるとしている。地方自治法施行令第167条の10の2も同趣旨である。2000年4月に会計法が規定する大臣協議が整い、総合評価落札方式が導入された。現在では、国の発注する建設工事のほとんどが総合評価落札方式によっている。
❷ 民間資金等の活用による公共施設等の 整備等の促進に関する法律(PFI法)
バブル崩壊後の財政状況の悪化に対処して財政構造改革が進められ、公共サービスの供給についても民間の活用が求められた結果、1999(平成11)年にPFI法が成立し、多くのPFI事業が実施されてきた。2014年3月までに実施方針公表事業は440件、事業費は4兆3,180億円にのぼる。ただし、文化施設、学校、廃棄物処理施設などいわゆるハコモノの建設費延払型といわれるものが多く、民間の企画力、マネジメント力の活用不足が指摘されてきた。2011年の法改正で「民間事業者による提案制度」および「公共施設運営権制度(コンセッション) 」の導入などが行われた。2014年6月の民間資金等活用事業推進会議の決定により、「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」として、今後10年間に12兆円に及ぶ事業推進を目指しており、これにおいても、コンセッションによるPFI事業や事業収入等で費用を回収するPFI事業が重視されている。具体的には、関空・伊丹空港や仙台空港の民間事業者による運営権事業があげられている。
❸ 公共工事の品質確保の促進に関する 法律(公共工事品確法)
公共投資の急減を背景にした入札談合や贈収賄事件に対処して2001年には入札契約適正化法、2003年には官製談合防止法が施行され、入札の透明性、競争性を重視して一般競争入札対象工事が次第に増加した。この結果、安値競争が激しくなって工事の品質への不安が高まることになった。こうした状況において、2005年4月に公共工事品質確保法が施行されるに至った。本法は、公共工事調達の目標を「価格と品質が総合的に優れた工事」として、総合評価方式を基本的な落札者決定方式と位置付けた。
2014年改正においては、将来にわたる工事品質の担い手育成と品質確保を目的として、多様な入札・契約方法から適宜選択できるようにするために、次の方式を規定した。
段階的選抜方式
競争参加者が多数と見込まれる場合に、一定の技術水準に達した者を選抜した上で技術審査(書類審査・ヒアリング等)によりさらに絞り込んで入札に付する
技術提案交渉方式
工事の仕様の確定が困難な場合、技術提案を公募の上、選定した者(交渉権者)と工法、価格などの交渉を行って仕様を確定した上で予定価格を設定し、見積り合わせによって受注者を決める
❶ 各国共通の民間事業者との対話と交渉の重視
改正公共工事品確法において新たに導入された技術提案交渉方式は、民間の技術とノウハウを活用するとともに、提案内容が実際に必要としている価格で契約することができるような交渉による契約プロセスを提示している。
近年における欧米の公共工事調達制度の動きをみても、前号で紹介したように、競争的対話あるいは提案交渉など対話あるいは交渉による契約相手の絞り込みや仕様および価格の確定に至る方式を重視している。EU公共調達指令の競争的対話方式は、2004年に導入されており、発注者が必要とする技術的方法を特定できない場合などに採用できる。米国の連邦調達規則の提案交渉方式も入札業者との議論が必要な場合などに限って適用される。いずれも発注者側の技術力およびプロジェクト・マネジメント力では対処困難な高度かつ複雑な事案を念頭に置いたものである。
図3 技術提案交渉方式の契約プロセス概要
❷ 技術提案交渉方式の契約プロセス
技術提案から契約に至るプロセスの大略は図3のとおり。
工法、価格等の交渉から見積り合わせに至る交渉プロセスで合意が得られなければ、次点の応募者に対して技術審査以降のプロセスを繰り返すことにより受注者を決定することになる。なお、技術提案の審査にあたっては、中立・公正な判断ができる学識経験者の意見を聞き、審査の過程等の概要を公表しなければならない。
❸ 技術提案交渉方式の対象工事
改正公共工事品質確保法第18条は、「当該公共工事の性格等により当該工事の仕様の確定が困難である場合において自らの発注の実績等を踏まえ必要があると認めるときは」、技術提案交渉方式により受注者を決定して契約することができると規定している。技術提案交渉方式の対象工事には、次の2つのタイプが考えられている※。
a 発注者が最適な仕様を選定できない工事
特殊な大規模ダム、長大橋など
b 仕様の前提となる条件の確定が困難な工事
地下埋設物や地質条件の把握が困難な工事、防災工事など時間の余裕がない工事など
現時点は制度が整った段階であって、その運用は今後に期待される。実際の採用例が出てくればどのような使い方が効果的なのか、実態を踏まえた議論が可能になろう。
※「多様な入札契約方式について」2014年9月国土交通省「発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会(第1回)」提出資料