お役立ち・支援

建築工事の調達方式 —これまでの経験に学ぶ—

第9回|発注者の責任と能力強化

現代建設けいざいラボ主宰 六波羅 昭


 発注者の調達行動に係る責任については、「発注者として自ら公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供すること」と表現される※1。近年はインフラの老朽化が進み適切なメンテナンスの重要性が高まるとともに、環境対策や周辺住民への情報提供など発注者・管理者の責任が広くかつ重くなってきている。
 施工不良、下請へのしわ寄せなど欠陥工事の原因として指摘される発注者側の問題としては、次のようにいくつかのケースがある。

   調達方式の選択にあたって価格競争を重視し工事品質について関心が低く、結果として安値競争、ダンピングを
    招いてしまうケース。
   経済活動の現況を反映しない予定価格の設定や歩切りが行われるケース。予算上の制約が理由としてあげられるが、
    工事品質への関心の低さを指摘できる。
   担当職員が不足し、発注時期の平準化など適切な発注計画の実施が困難なケース。とくに技術系職員の不足は地方公共
    団体に広くみられるがその確保は容易でないため、支援体制を含めた新たな体制づくりが大きな課題になっている。

 また、工事品質に関する懸念の回避、事務的負担軽減などのために指名競争入札中心の調達を継続しているケースも多く、入札談合など公正な競争性の確保に問題を生じるリスクが高い。


 

 公共工事入札契約適正化促進法は入札契約の適正化の基本となるべき事項として、第3条に、入札契約の過程並びに契約内容の透明性の確保、入札参加者又は契約の相手方になろうとする者の間の公正な競争の促進、談合その他の不正行為の排除の徹底、工事の適正な施工の確保の4つを挙げている。
 公共工事品質確保促進法は第7条に工事の品質を確保するうえでの発注者の責務を規定している。2014年6月の同法改正では、発注者が求められるこれらの事務内容をさらに具体的に明示している※2。また、発注者を支援するための措置および国が発注関係事務の適切な実施に係る運用指針を定めることを新たに規定した。
 建設業法では請負契約における発注者責任に関わる規定として、第18条(建設工事の請負契約の原則)、第19条(建設工事の請負契約の内容)、第19条の2(現場代理人の選任等に関する通知)、第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)、第19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)、第19条の5(発注者に対する勧告)がある。第19条の5は、公共工事発注者が前2条に違反した場合、必要があれば当該建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事が勧告をすることができるとしている。
 これらを踏まえて、工事の調達行動に際しての発注者責任を簡潔に列挙すると次のようになろう。

   談合等不正行為の排除による適正な競争環境の確保
   公正で透明かつ調達内容に適合した調達手続きの選択
   工事内容と経済情勢に見合った適切な予定価格の設定
   適正な請負契約の締結(仕様書等契約条件の詳細化・明確化、適正な履行期間の設定、契約当事者の双務性の確保、
    円滑な契約変更等)
   計画的な発注(発注時期の平準化など)

※1 発注者責任研究懇談会中間とりまとめ(1998年6月)
※2 2014年6月の公共工事品質確保促進法改正で、第7条に具体的な記述が追加された。主なものを挙げると、適正な利潤の確保ができるように経済情勢や市場実態等を的確に反映した予定価格の適正な設定、入札不調や不落の場合などにおける見積書の徴収等による適正な積算、ダンピング防止のための低入札価格調査基準や最低制限価格の設定、計画的な発注、適切な工期設定、適切な設計変更の実施等。
 


 

発注関係事務の適切な実施に係る運用方針

 改正品質確保促進法第22条は、国は品質確保の基本理念にのっとり発注者を支援するために公共工事の性格や地域の実情などに応じた入札契約方法の選択その他の発注関係事務に係る運用指針を定めるものとした。公共発注者共通のガイドラインを用意して事務処理のレベルアップと均質化、効率化をねらうものである。1月に公表された本指針(案)「本文」は、次のように構成されている。

「発注関係事務の運用に関する指針(案)」の構成

Ⅰ 本指針の位置付けについて
Ⅱ 発注関係事務の適切な実施について
 1 発注関係事務の適切な実施
  (1) 調査及び設計段階
  (2) 工事発注準備段階
  (3) 入札契約段階
  (4) 工事施工段階
  (5) 完成後
  (6) その他
 2 発注体制の強化等
  (1) 発注体制の整備等
  (2) 発注者間の連携強化
Ⅲ 工事の性格等に応じた入札契約方式の選択・活用について
 1 多様な入札契約方式の選択の考え方及び留意点
  (1) 契約方式の選択
  (2) 競争参加者の設定方法の選択
  (3) 落札者の選定方法の選択
  (4) 支払い方式の選択
 2 公共工事の品質確保とその担い手の中長期的な育成・確保に資する入札契約方式の活用の例
  (1) 地域における社会資本を支える企業を確保する方式
  (2) 若手や女性などの技術者の登用を促す方式
  (3) 維持管理の技術的課題に対応した方式
  (4) 発注者を支援する方式
Ⅳ その他配慮すべき事項

 

 

 
段階選抜方式および技術提案・交渉方式等

 改正品質確保促進法は、総合評価落札方式について、発注者の負担を減らして活用できるよう新たな方法を規定している。段階選抜方式は、まず技術的要件によって絞ったあと二段階目に技術提案と入札を行うことで発注者、受注者の負担の軽減を図っている。技術提案交渉方式は、技術的難度が高い案件について、公募により最も優れた技術を有する企業を選定し、価格や工法を交渉して仕様を確定したうえで契約する。このほか、インフラの維持管理業務の発注においては、複数年度契約、複数工事一括発注、事業協同組合その他の事業体が競争に参加できる共同受注方式が規定されている。
 11月号で紹介したEU公共調達指令には発注者の負担軽減あるいは支援に関する仕組みとして「枠組協定」や「一括調達機関」がある。


 

 技術職員の不足などから発注事務の円滑な執行が困難な地方公共団体等発注者の支援のために、CMの活用は以前から繰り返し問題提起されてきた。東日本大震災の復興事業においては、UR(都市整備機構)が地元市町の業務代行機関として、CM方式によって事業を推進している※3。公共事業において本格的なCM方式の実施は、初めての例といってもよいだろう。
 URは、女川市はじめ12市町でアットリスク型CM方式を、また、大槌町と石巻市ではピュアCM方式を実施しており、CMR※4として大手・中堅ゼネコン、建設コンサルタントおよび地元建設会社の共同企業体(JV)と請負契約を締結している。アットリスク型CM方式の場合、専門工事業者の選定および契約はCMRが行い、施工上のリスクは基本的にCMRに帰属する。ピュアCM方式の場合は、専門工事業者との契約は、事業主体である公共団体が当事者となり施工上のリスクを取ることになる。
 URと女川市など12市町との間でそれぞれ締結された契約は、フルパッケージ型事業受託契約であり、URは下記の業務を行う。

   CMRを選定しアットリスク型CM契約(請負契約)を締結
   事業全体の計画調整
   基本設計
   換地、補償等の調整、事業管理、重要事項に関する施工管理その他

 一方、CMRの業務は以下のとおり。

   目標工期の最短化とコスト縮減(コストプラスフィー契約による)
   設計諸元の検討および公共団体との設計協議支援
   測量および設計の発注、管理
   専門工事業者の選定、工事発注、施工管理(重要事項はURも行う)
   ライフライン等に関する関係企業との調整、その他

 URは、大槌町および石巻市からそれぞれ発注手続支援事業を受託し、次の業務を行っている。

   設計施工CMRおよび管理CMRの選定
   CMRへの技術支援

 管理CMRは、公共団体の職員業務を支援・補完する。具体的には、事業調整、事業管理支援、発注支援、オープンブック審査支援、地元企業活用審査支援、換地設計・権利変動調査・確定測量等の発注支援などである。
 このような大掛かりな発注者支援事業の成果を得て、今後における発注者の能力強化と外部からの支援のあり方について、これまでにない新たな知見を得ることが期待される。

※3 (一財)建設経済研究所2014年4月「建設経済レポートNO.62」、2013年10月「同NO.61」
※4 Construction Manager
 

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