EU公共調達指令は、2004年に競争的対話の導入など重要な改正が行われ、これに沿って加盟各国の国内法令が整備されてきている。本年に入って再び改正があり、4月から発効している。2年以内に各国で国内法の見直しが行われ、新ルールが実施に移されることになる。
表 EU公共調達指令の新旧対比
※1 Competitive Procedure with Negotiation
※2 the most economically advantageous tender(MEAT)
EU委員会は新ルール導入の理由として、経済・社会的および政治的な変化と近年の財政ひっ迫の状況をあげたうえで、具体的な狙いについて、第一に手続をより簡素で効率的なものとして、発注者、受注者ともに事務的な負担の軽減を図ること、第二に発注者が最大のVFM(Value for Money)を得られるようにすること、そして第三に透明性と競争性をより重視することの三点を挙げている。調達手続と落札基準に関して新旧指令を対比すると右表のようになる。
なお、EU公共調達指令は、一定の金額 (2014年1月から5,186千ユーロ)以上の規模の工事を対象にしている。この閾値は2年ごとに見直される。EU加盟国の2009年調査では、工事、物品、サービスに係る公共支出金額全体の約20%にあたる4,200億ユーロの契約がEU公共調達指令に従って実施されている。
旧指令の①は誰でも応札できる一般競争入札に類似した手続である。 ②は入札希望業者のうち一定の財務能力および技術能力等により応札資格を制限する手続で、最低入札者5者を必要とする。 ③交渉手続は、特定の条件(価格の事前評価が困難、入札不調、技術的条件等により業者が特定される、既存契約の追加工事など)のもとで特定の業者と交渉する随意契約の手続である。
④競争的対話は、公共調達指令の2004年改正で新たに導入された。技術提案をもとに複数の相手と対話を進め、最も優れたものを採用する手続である。案件が特に複雑で次の条件に合致するときにのみ採用できる。
● 発注者がニーズ又は目的を満たすことができる技術的方法を客観的に特定できない場合
● 発注者がプロジェクトの法的又は財政的構成のいずれか又は両方を明確に規定できない場合
④を採用した時はEU委員会の要請があれば選定理由、落選させた理由等についての報告書の提出が必要になる。PFIプロジェクトがこの手続で実施されている。
今回改正された新公共調達指令では、「交渉手続」を「交渉付き競争手続」に切り替えた。随意契約における契約者決定の不透明さを改善し、競争的要素を加えたものである。EU委員会は、民間の調達方式の合理性にならったとして、本手続が広く行われると期待しているようである。
落札基準に関しては、今回の改正で変更された点はない。 ⓑ「経済的に最も有利な入札(MEAT)」の評価要素としては、価格のほか、品質、工期、ランニング・コスト、技術上のメリット、費用対効果など当該契約に関連した様々な基準が挙げられている。異常な低価格入札に対しては、発注者は書面により施工方法、労働関係規定の遵守などについて説明を求め、さらに必要な調査を行う。
公共調達指令にはこのほか、中小企業の公共工事へのアクセスを改善するための措置※3、枠組協定※4、一括調達機関※5、環境問題など新たな要請への対応策※6が規定されている。
※3 公共工事のロットの分割、公共工事受注額の上限を設定、枠組協定等。
※4 一定期間に特定のサービス・工事等を一定の条件で調達する相手となる複数の企業を入札によって選定し、合意された条件で個々の契約を締結する。
※5 他の発注機関に代わって請負契約や枠組協定を締結する調達代行機関。複数の発注機関を代行することにより公共調達の効率化、競争力の強化などの効果を期待できる。
※6 ライフサイクルコストによる契約者の決定、イノベーションを要求する提案募集(Innovation Partnership)など。
新公共調達指令に基づく各国の国内法の改正は2年以内に行われることになっている。2004年の旧指令に基づく各国の現行法の要点を以下に記す。
(1)英国
英国の公共契約規則は、EU閾値以上の規模の工事を対象にしており、EU閾値未満の工事を対象とする規則はない。この中小規模の工事の扱いは発注者に任せられている。公共契約規則では調達手続は、 ①公開手続、 ②制限手続、 ③競争的対話、 ④交渉手続(事前公示有・無)の4種類であり、落札基準はEU指令が掲げる2種の基準である。
③競争的対話の「適用が推奨される調達対象」として、大規模ITプロジェクト、病院や刑務所などのPFIプロジェクト、都市再生のための官民連携などが挙げられている。
工事調達実施件数をみると、 ②制限手続が約85%、落札基準は ⓑMEATが95%を占める。
(2)フランス
公共契約法典では、EU閾値以上の規模の工事を対象に、 ①提案募集・公開手続、 ②提案募集・制限手続、 ③競争的対話、 ④交渉手続(事前公示有・無)、 ⑤設計競技方式、 ⑥設計・施工(DB)方式が選択できる。また、閾値未満については、発注者が任意の発注手続を選択できる。落札基準はEU指令が掲げる2種の基準である。
工事調達実施件数をみると、 ①提案募集・公開手続が約90%、落札基準はⓑMEATが95%を占める。
(3)ドイツ
競争制限禁止法および建設工事調達契約規則(VOB/A)による。EU閾値以上の規模の工事については、 ①公開手続、 ②制限手続、 ③競争的対話、 ④交渉手続(事前公示有・無)、閾値未満については、 ①公開手続、 ②制限手続、 ③随意契約手続からの選択になる。工事調達に関しては、 ①公開手続を基本としている。落札基準はEU指令が掲げる2種の基準である。
工事調達実施件数をみると、 ①公開手続が約97%とほとんどである。落札基準は ⓐ最低価格と ⓑMEAT半々となっている。
連邦政府の物品、サービス、建設工事等の調達は、連邦調達規則によって行われる。主として小規模調達に適用される簡易調達手続を除き、完全公開競争が原則とされている。
入札方式は、封印入札のほか、提案交渉方式がある。
封印入札は伝統的な入札方式であり、公開の場で開札し、最低価格で入札した者が落札する公正で透明性に優れた方式である。しかし、安値で落札して契約変更によって価格を引き上げる例が多くみられ、この方式の最大の欠点とされている。
建設工事の場合、 ❶入札要請から入札評価までの時間的な余裕がある、 ❷価格および関連要素によって落札者を特定できる、 ❸入札者とのディスカッションが不要、という条件を満たせば封印入札を適用する。第1段階で技術提案の要請、評価などを行って参加者を絞り込み、2段階目で価格入札を行う二段階封印入札もある。
提案交渉方式は、価格以外の要素を落札基準に含み、各要素に係る提案内容を評価して受注者を決める。封印入札の欠点に対処し、発注者のベスト・バリュー(Best Value:総合的に最も高い価値を得られる)を追及する。次の場合に提案交渉方式が適用される。
❶ 工期が重要な要素
❷ 価格以外の要素で業者を選定
❸ 入札業者との議論が必要
落札基準は、封印入札では、最低価格基準であるが、提案交渉方式ではベスト・バリューが基本である。必ず評価しなければならない必須評価要素として価格、品質(技術)、過去の実績の3つがある。
参考文献
1 European Commission“Directive 2014/24”
2 国土技術政策総合研究所資料No.772
3(一財)建設経済研究所「建設経済レポート」 No.58(2012年4月)、No.59(同10月)