企業経営改善

第17回建設業経営者研修のご報告

第17回建設業経営者研修「新しい建設業のかたち」開催報告

(一財)建設業振興基金 構造改善センター

 

―――相馬副理事長にお伺いします。「鰐come」という日帰り町営温泉施設を、指定管理料0円にも関わらず、黒字で運営されているという事ですが、その採算が成り立つ秘密はどこにあるのでしょうか。
相馬氏 ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、わが町は第2の夕張と呼ばれる財政難の町です。たった人口1万人の町にもかかわらず、リゾート開発の失敗によって100億円の借金を背負っており、財政健全化団体として、30年計画で借金を返済している最中です。
 そうした中、議会は町営施設を民間委託すること、指定管理料をゼロとすることを決めました。受託者募集の説明会には、みなさんのような建設業者さんをはじめ、色々な方が来ましたけれども、2年間で5500万の赤字を背負っていた施設を指定管理料ゼロ円で公募という話を聞いて、私たち以外の全員が途中で退席されました。
 そんな厳しい条件下でも、なぜ手を上げたかというと、やっぱり、自分達が生まれ育った故郷をこのまま第2の夕張にしていてはイカン、人生かけてこの町を再生していかねばという、「ふるさと愛」からです。
 当然、単年度での黒字転換など絶対無理とコンサルの先生にも言われました。前年対比の売上げがずっと90%程度で来ている施設にもかかわらず、130%を達成しないと黒字化出来ないという見通しでした。先生の試算では、最高の成績でも年12%の改善、初年度は102%しか行けません。3年目でやっと黒字ですよとのことでした。しかし、私たちはなんとしても130%を達成し、初年度で黒字化してみせますと、コンサルの先生と対決するような形で、町営施設の指定管理をスタートしました。
 受託の際、町から、現在の職員40名については、できる限り全員再雇用してくれと言う条件を頂きました。そしてもう一つ、給料までは決められておりませんでしたので、再雇用面接の際職員全員に、申し訳ないけれども民間経営になるため、初年度の給与を10%カットさせて頂きますとお願いしました。ただし、黒字化を達成出来たら皆さんに必ず期末賞与として恩返しさせて頂きますという話をし、「鰐come」はスタートしました。
 受託開始日の6月1日から365日、朝8時45分から15分間の朝礼をやりました。全員にひらめきノートというものを渡し、何かひらめいたら忘れないようすぐ書いてくれ、そしてすぐ上にあげてくれとお願いをしました。
 そして、この田舎町でリッツカールトンホテルや、ペニンシュラや、ディズニーランドに負けない世界一のサービスを目指すんだと、日本でもトップクラスの百貨店のカリスマ店員さんをお呼びして、3泊4日、40人一人一人についていただいて、接客マナーの講師をして頂きました。
 こうした取り組みによる様々なアイディア(とその実施)、ホスピタリティーの向上により、初年度の売上は前年度対比138%を達成、10ヶ月目にして黒字化することができました。3年目の昨年は町営時代の230%を達成することができています。
 第2の夕張といわれる我が町を「日本の田舎町再生のお手本」にしようということで、我々組合員、人生をかけてこの町の再生に取り組んでおり、14名の組合員の中に2名の建設業の皆さんも参加していただいております。
 
―――山田理事は居住者の立場に立った適正なマンションリニューアル市場の構築に取り組んでおられますが、実際にマンションの改修工事に携わられ、現在は、リニューアル協会で活動されています。今取り組まれていることをご説明いただけますか。
山田氏 マンションのリニューアル、大規模修繕工事の現状についてお話しします。区分所有をされているマンションの場合、管理組合という組織を作り修繕計画などを立案します。ただし、当然ですがそのメンバーはほとんど一般の方、悪い言い方をすると素人の方です。よって、修繕工事を入札方式でやると、値段で安いほうを選んでしまいがちになります。
 ですから、本当にその値段でちゃんとした工事が出来るのか、だれかが精査して、工事を円滑に行うための旗振り役をしてあげなければならないという所が問題になっています。コンサル、担当会社や、マンション管理会社が中に入ってはいるのですが、いかんせん、最終的な発注者側が素人さんになってしまいますので、どうやって安いだけではダメだと理解させるのか。そういう点に骨を折っている所です。
 ちょっと裏話をさせて頂きますと、例えばコンサルティング会社や、マンションの管理会社の中には、いわゆる談合的なことを行っている所も未だあるようです。公共工事では問題になるのでしょうが、民間工事だとあまり表沙汰にもなっていないのが実情だと思います。ただ、本当にそれでいいのかという思いはあります。例えば、業者さんが1000万で工事を受けたけれども、そうしたことにお金を使えば工事に使える分は減ってしまいます。そうすると、本当の単価さえ見えなくなってしまうのです。
 私共が危惧しているのは、(工事品質はもちろんですが)職人さんに十分なお金が渡っているのかということです。皆さん元請けさんであるとか専門業者さんのトップの方だと思うのですが、職人さん達はいくらで仕事をしているのか、それは本当に生活ができる金額なのか。私共協会自体がコンサルティングをやることは多くはありませんが、この見積はこのぐらいでいいと思いますかという問い合わせに対して、内容の査定をするといったことは良くやっています。
 また繰り返しになりますが、マンションの修繕工事で一番難しいのは、素人ばかりの発注者にどうやって理解してもらうかということです。実際、協会の中のコンサルティング会社からも、安値だけでコンサルティングをするのであれば、ここの協会に居ても仕方がないというお話が出てきます。いかに現実的な価格で、一番頑張っている会社さんを後押しするのがコンサルタントの仕事だろうと思います。
 先頃も工事(の査定を引き受けました)。7000万ぐらいの修繕工事だったのですが、一番札のところと二番札の方の価格差が約300万円ありました。色々とヒアリングをかけ、プレゼンテーションを行なってもらう中で、技術者さんの方の対応(も見させて頂きました)。価格(と技術)を吟味し、その管理組合では二番札の会社を採用されました。
 今まで皆さんからお話がありましたけれども、やはりサービス業なのです。いかにして発注者の皆さんを説得するのではなく、納得していただいて工事する。そういう姿勢のある会社さんを選びましょうという形で、私どもは工事に関与しています。お客様の目線に立って、安値を受注するのではなく、適正なものこそ正しいと情報発信をすることが我々の役割だと思っています。
 
―――安達講師の講義の中でも、リフォームにおいて、お客様は、価格以上に、積極的で納得できる説明やアフターサービスを重視しているという節がございました。これは安心という言葉につながるかと思いますが、そのままリニューアルの業界にも言えるとお考えでしょうか。
山田氏 おっしゃる通り、お客様が一番求めるのは安心だと感じます。ただ、営業の最前線に居る方はおわかりかと思うのですが、(契約が決まるときは、)あなたに任せたら大丈夫だと思ったから買うのですという(形で決まる)ことがやはり多いと思います。公共工事であっても、色々な形で顔合わせをしたりして、担当者さんとこういうお話があるのではと思います。
 お客様に本当に任せていいわと(信頼されれば)、小さな問題についてはあまり指摘を受けなくなります。逆に、単にお客さんのわがままだけを聞いているような状態ですと、色々なことを言う方が出てきます。マンションの修繕工事の難しいのは、たくさんの居住者さん、発注者さんに、均一なサービスをしなければいけないという事です。あなたのわがままだけは聞けませんが、ここまではできます。ただここまでは協力をお願いしますという、否定するだけではないやり方、私はこれがサービスの提示かなと思います。

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