―――山田理事にお伺いしたいと思います。矢野経済研究所の発表によれば、マンション改修市場は現在約6,000億円の規模があり、年々増加を続けているそうです。住宅着工統計によれば、平成12年の新規共同住宅の工事費予定額が1兆6,700億円ということですから、マンション改修市場は非常に魅力的であると考えています。一方で、新規参入による過当競争もすでに見られるのかが気になります。今後、マンションの改修市場に新たに参入しようとすると、どこに気を付ければ良いのでしょうか。
山田氏 市場規模に関しては、たぶん皆さんも感じられているかと思いますが、ストックの改修、維持保全、または付加価値を与える仕事は今後増えてくると考えています。当然、新築事業が減って行く中、新しい方が流れて来ています。もっとも、東北の件があってからはかなりのボリュームが、再度新築のほうに戻られてしまいましたので、足元では一旦下火にはなっておりますが。
ただし、政権が代ったらどうなるのかなど不透明要因はありますけれど、リニューアルは確実になくなりません。建物を全部ぶっ壊して新しく建て替えない限り、ニーズは無くなりませんから、これはまず間違いなく皆様でも覚えておかねばならないこと、今後やらなければならない事になるはずです。
(私が気になっている点として、建設業界には)今できることを求められるままにやっていて、気が付いたら大変な状態になってしまったという会社さんが多いように思います。ざっくりしたお話ですが、「それはうちの会社じゃできないから」というのは言ってはいけないことです。もしかしたら皆さんの中にも、そうした対応で機会を失っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今日の参加者には、専門工事業者さん、元請けさんなど色々な業種の方がいらっしゃいますが、お客さんにとっては最初にボール投げた人が窓口です。経路はどうであれ、そこから先に広がって行って、(お客さんが)結果的に望むものができれば良いのではないでしょうか。
私は小さな修繕工事からお手伝いをして、最終的に大きな修繕をやることになった経験が多いのですが、今わからないことは勉強すれば良く、出来ない事はどうやったらできるか考えればいいだけだと思っています。私どものPRのようで(恐縮)ですが、我々は技術者集団で、リニューアルの現場に立っている人間達が集まっている団体ですから、ぜひ利用していただければと思います。リニューアル、ちゃんと覚えてしまえば難しいことは無いはずです。ぜひとも勉強していただければと思います。
―――お時間も徐々に残り少なくなってきました。藤原先生に質問です。先生は建設業以外にも、製造業やサービス業、小売業などの経営指導にも関わっていらっしゃいますが、多くの建設業が抱える問題と言うのが、経営状態の悪化だと思います。その原因は何であると思われ、どのような手段で経営見直しを行うべきかお聞かせください。
藤原氏 経営相談に来る先は、やはり何か悪いところがあり、結果、かなり経営状態が悪い建設会社さんとも数多くかかわっています。そうした中ですごく気になるのが、建設業界はもう駄目じゃないかと言う経営者がかなり多くいらっしゃることです。そういう方には、私は早くやめた方が良いとアドバイスします。
ここの所ずっと公共工事が減っていましたけども、トンネル事故がおきまして、インフラをしっかりしなければ、今の生活は維持できないことがはっきりしました。ここを支えているのは建設業です。問題があるのは、今日、何人かのパネリストの方々がお話しされていましたけれど、建設業だけじゃないんですね。町の町長がやってもらいたいような地域興し的なことをやっておられる方もいらっしゃいましたけれども、基本的に、工事屋として使われる(請け負う仕事を待っている)だけじゃダメだっていう事ですよね。
リニューアルもそうですけれど、ちゃんとお客さんのニーズをとらえなければいけない。俺工事できるよ、だから図面くれ見積もりするよ、これでは全然だめだと思うんです。お客さんが何を求めているのか、潜在需要の顕在化と言う提案営業活動、これをきっちりやる。それが出来るようになれば、建設業の将来はすごく明るいものになると思います。
建築物は木造が20年、RCは40年とか言われてきましたが、戦後60年経って、これからもう一回、自民党のこのあいだの政権交代も多少影響するかもしれませんが、今現在の人々の快適な生活環境を維持・保全する為には、もう一度、建設業活況の時代が来る。と私は思っています。
ただ同時に、私はバブル期までの発展途上国型の建設会社経営はやっぱりまずいと思うんです。当時は給料もぼんぼん上がりましたし、職人は社員の給料の倍貰っていた時代がありました。私はその真只中に居たわけですが、そうした建設業が必要とされる時代がもう一度来る。でもその近い将来の建設業の担い手は、今の建設会社さんが主役になるとは限らない。本日のパネリストのような新しい発想やアプローチで、または、建設業界未経験の方々が建設業界に算入してくる。在来の建設業者はその中で使われ、管理業務主体のゼネコンは不要にさえなるかもしれない。専門工事業だけが生き残る可能性すらある。
こういう時代背景を鑑みますと、国交省がやっているような資格保有者だけではなくて、時代のお客さんに合わせて潜在需要を顕在化できるような営業活動のできる人材を育成・確保しないと、この新しい建設需要(市場)には、参加していけないのではないでしょうか。今日のパネリストの皆さんは、その最先端を行っているように思うのですね。外から入ってくる人が建設業に刺激を与える。今日はそういう企画なのでしょうけど、業界的に非常にいい話を伺えたと思っています。
1年ほど前に、ヤマダ電機でクーラーの取り付けをある地域を一手にやっている電気工事業者さんにお会いしました。職人3人ぐらいの会社さんですが、ものすごく儲かっている。そこは5~7月の3か月間で1年分稼ぐそうです。仕事はまだまだあると思いますので、前向きに経営をしていただきたいと思います。
―――最後に安達講師、一言お願いいたします。
安達氏 感想みたいな話で、今の藤原さんの話と一緒なんですけれど、今日は本当に私も来てよかったよなと思いました。新しい建設業の形と言うことで、基調論みたいな話を致しましたが、もう実際すでに実践している人がいるじゃないかと言う話ですよね。出来るかどうかはやってみなければわからないけれど、やっている人がもう前にいるのだから、どんどんやろうじゃないかと強く思った次第です。
最後に、ちょっと面白かった新聞記事を紹介したく思います。アメリカの学者ですが、今から小学校に上がる子供たちの65%は、今はまだ存在しない職業に就くと発言していました。パラダイムが変わるという事だと思うのですが、3分の2の人が、今の我々が思いつかない新しい職業についていると言われるとどう思われるでしょうか。
その新しい仕事、多分そういう発想の根っこにあるようなものが今日いろいろ出てきたと思います。私はそれらの職業のほとんどは、地域を支えるとか、ネットワークをつなぐとか、そういう事になる。そこには今建設業者とされている人たちがかかわる可能性がきわめて強いと考えています。
新しい建設業の姿について考える際には、やわらかい発想で、未来は明るいぞと考えて進んでいくと、道が開けるのではないかと言う風に思います。
―――ありがとうございました。