―――永濱社長に伺います。今1,400社の電気工事業者のネットワークがあり、チェーン展開する店舗に小口、緊急のメンテナンス工事をやっておられるとのことですが、他の業種でも可能性があるのか、真似出来そうでできないのか。お考えを伺えますでしょうか。
永濱氏 当社は自分達では全く工事をしておりません。社員数も50人などとお手元の資料には書いていただいておりますが、コールセンターがあるから人数が多いだけなのです。
電気工事業者の会社数は正確には、1,363社で、電気工事会社様には基本的な情報を開示していただき、それをベースに、コールセンターでは電気工事資格を持った当社のスタッフが発注者様や電気工事会社様に対して24時間365日間応対しているのが特徴です。
私はとにかくニッチしかやりませんでした。電気の緊急事でやる仕事以外は絶対に手を出さない。人のやりたがらない仕事だけを、それは急ぎ仕事や小さい仕事だということでやって来ました。
先ほどの質問ですが、4、5年ぐらい前でしょうか。チェーンストアから一箇所に頼むと楽だからエアコンのメンテナンスもやれと言われ、やってみたことがあります。しかし、エアコンの工事があんなに難しいものだとは思ってもいませんでした。想像以上に工事が来るのですが、電気とはいえ必要な知識というものが全く違いました。また単価が数十倍違うので、突然売上は増えましたが、設定した一律価格の範囲にハマる工事がほとんどありませんでした。エアコン業務について、マネジメント・ノウハウが構築しないでスタートしたため混乱をきたし、苦境に追い込まれた苦い経験があります。
また、最近の傾向の1つとして、緊急メンテナンス工事であれだけ人を出せるなら、例えば10店舗でLED化工事をするので、これを一斉にやってくれというような依頼です。これも難しい業務です。といいますのも、職人さんが特定の箇所に集中して比較的長期に滞在すると、そのエリアでの緊急メンテナンスの円滑な対応が成り立たなくなってしまう恐れがあるなどが挙げられます。小坂田さんの会社は10人いると伺いましたが、私達の工事の仲間はほとんど3人、あとはまあ一人親方みたいな方をネットワークの対象にしております。
他の業種でも可能性があるのか、というご質問ですが、やれば出来ると思いますが、全国レベルでかつ安定的な工事量を確保していくのは難しいのではないでしょうか。
私としては、今後はLED化工事のような依頼をこなしていくには、一緒に対応していただけるような規模の所や、今回参加されているような皆様のような当社からみてお付き合いがなかった他の分野の方々とのネットワークを推し進めていけるといいなあと希望しております。
―――他社との連携もされているようですね。例えば、先程、安達講師の講演に出てきたネクストエナジー・アンド・リソース社さんとは、具体的にどんな業務で提携をされていらっしゃるのでしょうか。
永濱氏 ネクストエナジー・アンド・リソースさんは長野にあります。当社の発祥は長野県上田市ということもあり、同社の伊藤社長とご縁が出来ました。ネクストエナジー・アンド・リソースさんは、事業所に付いている太陽光発電装置一式を引き上げてリユースする仕事を行なっておられます。ネクストエナジー・アンド・リソースさんはこの分野では素晴らしい技術力をお持ちです。
ネクストエナジー・アンド・リソースさんは技術力のある会社、当社はいわばサービス面で強みがありますので、事業領域が重なることはありません。むしろ、協業関係を構築することで、それぞれの強みを活かしたワンストップサービスの提供が可能になります。そうした観点で、随分打ち合わせを重ねてきました。そして、ひとつのパッケージとして太陽光の産業用メンテナンスができますという案内ができるようになってきたという所です。
―――受講者の方からいただいた事前のご質問に、ニッチ戦略について伺いたいというご要望があったのですが、あえて既存の建設会社の領域に入らないというようにも見えます。戦略という言葉でいうと、どういうことになるのでしょうか。
永濱氏 あの、入れなくて、そのあと入らないほうが身の安全だと思ったというのが正解かなというところです(笑)。
ある大手コンビニチェーンさんに営業に行ったところ、準大手のゼネコンさんというのでしょうか、ある建設会社さんがメンテナンス・パッケージを作られているので、そこの下でやってくれと言われた事がありました。私は今でも良く覚えているのですが、そこの本部長さんのところに行って、仕事させてくださいとお願いしたところ、「お前はそうやってメンテナンスをやってお客様の信頼を勝ち得て、いつか当社が手掛けている市場に参入してくるつもりだろう。」とさんざん冷やかされました。結局は私の善人そうな雰囲気を信じてくださったのか(笑)、取引が始まってから今日までその会社さんの事業領域には参入せず、電気設備の緊急事だけを行っています。私はゼネコンをはじめ、建設業界の方々とも良好な関係を築きたいと思っているのです。
私は自分のネットワーク仲間の職人さん達が本当に好きなのです。しかし、彼らはある程度以上の規模になる工事をやる人たちではありません。ですから、他の領域の人達、自分達ではやれない、出来ないことが出来るところから真剣に声をかけていただければ、そういうことをやれる方と一緒に、自分の領分を守って仕事をしたいなと、そんな風に思っています。
―――マンションの方にも一時、進出されたが、縮小したようなことをお伺いしたんですが。
永濱氏 マンションは、これも4年前ぐらいにやって失敗して、今また少しずつ始めているところです。お話があったのは大きなマンションの管理会社さんでした。入居者から、共用部廊下の電気が消えているのに、連絡してもなかなか直らないとお叱りを受けたことがきっかけのようでした。我々はマンション共用部の電気が切れていたらすぐに替えるという仕事をはじめました。その後、評判がいいから専有部の換気扇やエアコンといった分野まで広がっていいきました。
今まではチェーンストアさんがメインのお客さんでしたので、ひと月ごとにまとめて送金していただき、工事業者に払うというスキームでした。しかし、マンション関連の仕事は直接、現場でお金を受け取ることが多く、残念ながら現金に絡むトラブルごとが散見してきました。そこで業務の見直しを行った結果、縮小にいたりました。
―――少子高齢化時代を迎える中、建設業に限らず、若手の人材確保は中々難しいところもあるのかなと思っております。相馬副理事長さんに伺いたいのですが、すでに次世代に向けた仕掛けというかですね、たとえば「OH!鰐キッズ隊」の話ですとか、「大鰐温泉もやし」のブランド化というところで、地域をきちんと持続をさせるために取り組まれていらっしゃると思うのですが、人材育成、今後の後継者育成という観点で、お話をいただけますでしょうか。
相馬氏 まずは後継者育成という話ですけれども、後継者育成を兼ね、私たちは子どもたちとまちづくり活動を行なっております。平成19年に、「OH!鰐元気隊」というまちおこしグループを立ち上げました。その翌年から、大鰐小学校の5年生と6年生は「OH!鰐元気隊キッズ」ということで、我々大人の元気隊と一緒にまちづくりをやろうという活動をスタートさせております。
まず、子どもたちと一緒にビジネスとしての野菜作りをはじめました。春に野菜ソムリエの先生とか、種屋のプロフェッショナルの先生をお呼びして、これから東京で流行りそうな野菜などを学びます。そして、子供たちは学校の庭だけではなくて、ちょっとスペースが足りないので、父兄の畑を借りたりして、野菜作りを始めます。
通常の授業であれば、秋に収穫祭をやって終わりとなりますが、私たちは、収穫後に子供たちと一緒に売り込みまで行っています。まず、東京の青森県アンテナショップに野菜を売り込みに行きます。そして、一流シェフが経営しているレストランにその野菜を持ち込んで調理してもらいます。さらに、その調理した野菜を使ってパーティーを開催します。
どういうパーティーかと言うと、参加者は大鰐小学校の6年生の子供たちと、我々大人の元気隊隊員、東京の著名人です。例えば国の役人さん、高級外車部品屋の社長さん、大手百貨店のバイヤーさん、一流レストランのシェフ、ホテルの支配人などですね。
こういう東京の大人と対等に、大鰐小学校の子供達は営業活動をします。大鰐町と、大鰐町の自分たちが作った高原野菜を売り込みます。そして、大鰐町をよろしくお願いします、私達もおとなになったらみなさんのように頑張りますと、名刺交換をします。
子供たちは家に帰ると、いつも食卓で「自分の町は借金だらけでなんにもない町」と言っている、お父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃんたちに、もらった名刺を見せて、「お父さんお母さん、大鰐は全然悪い町でないよ、間違っていませんか。私たちはこういう人たちと名刺交換をしてきました、大鰐町すごいよ」と言うでしょう。
大人にね、気づきを与えるんです。そしてその子供たちは、自分たちがまずは意識改革をします。自分の親から教わった、自分の町は全然ダメな町だということに対して、きちんと反論し、しっかり夢と希望を持ちはじめます。そして、大鰐を元気にしたいという思いを抱き始めます。こうした活動はものすごく時間かかるんですが、やらなければわが町は間違いなく死んでしまいます。
同じような境遇の町村さんは全国に沢山あります。平成の市町村合併をする前は、全国に3200の市町村がありました。そのうち2800の町村の中には、まさにそういう状態に陥っている所が非常に多いんです。合併しても飛び地であったり、一番端っこに合併されたりという町は非常に今辛い思いをしています。そういう小さな小さな町の地域再生のお手本作りをするためには、まず子供の教育に取り組まねばなりません。あっという間に子供達は大人になります。もう6~7年もすると社会人です。そういう子たちを教育する。私たち大人が目線をそろえ、対話をする機会を増やして、一緒にまちづくりをするのです。
野菜作りと東京に行くだけではありません。月に一回日曜日、朝7時半に集合して、元気隊キッズと元気隊員は、一緒にまちの清掃活動をします。まちをきれいにするためだけではなく、子供たちと会話をする事自体を目的にやっています。元気隊の隊員は、毎月の例会でちゃんとミーティングをして、夢を与える会話をするように、そして、町の批判は一切しないようにと決めています。大鰐町は再生に向けて着実に前進していると思います。
建設業の話とはちょっとずれているかもしれないですが、私たちは、指定管理している鰐comeの従業員に対しても同じように行動をしております。これは確実に「人材育成」につながっているものと確信しております。
それから大鰐温泉もやしですけれども、これは400年続く伝承野菜です。間違いなく日本一のもやしなので、ブランド化を図ろうと活動させていただいております。
お陰様で、全国から生産量の10倍にもなる問い合わせをいただいており、9割の方にはもやしが届いておりません。残り1割については、地元のみなさんと、今までご縁をいただいているお取引先、それから特別なご縁のある高級飲食店様にお届けしております。時折、有名シェフの皆様からもお電話を頂戴しますが、残念ながら、まだまだ品薄のため対応できておりません。
なぜブランド化なのか。町の農産物すべてを売り込むためです。もやしは大鰐高原野菜、大鰐高原リンゴを超一流のブランドにしていくための尖兵隊です。もやしと並行して、野菜もリンゴも全国に出荷しており、これから海外も見据えて営業活動をして行こうとしております。
先週実は上野駅で一週間フェアを行いました。もやしと野菜とリンゴを販売し、上野駅の「のもの」というJR直営のアンテナショップの催事売り上げ新記録を作りました。大鰐温泉、大鰐高原、大鰐温泉もやしは確実にブランド化してきていると実感しています。テレビでも最近よく、大鰐温泉もやしが出るようになりましたけれども、町をブランド化して、町を再生して、地域全体を元気にしようという取り組みを、「コミュニテイビジネス」の手法を用いて、行っております。
―――ブランド化という意味においては、その食材を使っていただく方をあえて選んでいるというようなことだと思います。商標登録も2年あまりかかってとられたということも伺っており、大鰐温泉もやしは生産に労力が凄くかかるけど、利益の上がる高付加価値商品だということで、生産者がついてきているのではないかと考えています。
新分野に進出して農産物を作ってらっしゃる建設業者も多いのですが、販路に困っているとか、どうしても安値競争に巻き込まれるというようなことを聞くものですから、こうした商品の生み出し方についてぜひ伺いたく思うのですが。
相馬氏 生産者がなぜ少なくなったかっていうところからまずお話しさせていただきます。ハードな労働と、朝が早いということと、お金にならないという3Kが原因です。
(大鰐温泉もやしは)朝2時から収穫を始め、5時か6時には出荷するというのを江戸時代からやっていました。加えて、委託販売を400年間続けてきていました。100束おさめても、50束しか売れなければ50束分のお金にしかならなかったんですね。その仕組み自体を私たちは変え、全量買取りとしました。100束作るなら、100束お金にならないとダメでしょうと。130円で委託販売して、1万3000円になるはずのものが、50束しか売れず、6,500円しかお金にならなかった。それを我々は、180円で買取して、18,000円に確実にしますという仕組みを作りました。
この仕組みを稼動させるのにも、ブランド化が必要でした。フードライターさんやジャーナリストさんとの御縁を重ね、料理雑誌・新聞に取り上げていただいたり、テレビやラジオに出していただく努力を重ね、青森県庁や大鰐町役場とも連動して広報に努めました。
実は生産者が最低で5軒になった時期がありました。(やっと今7軒になりました。)なぜ、生産者が増えないかと言うと、大鰐温泉もやしの生産は一子相伝で、直系の家族にしか伝授してはならんという特殊なルールがあったのです。ただ、若者はお金にならず、朝早くて辛い労働で、収入も少ないわけですから後を継がず、昔は40軒ほどあった農家が5軒まで減ってしまったのです。その構造を変えることで、若い人たちが手を挙げるようになりました。町は、直系の後継者がいない場合は、若者を新規就労者として育成するという後継者育成事業を10年前に初めて行い、まずは1組の農家が誕生しました。その後、今から3年前に我々の組合が雇用した若者2人が10年前参入した農家に弟子入りして、やっと7戸になりました。今は、町や県と連携しながらブランド化と増産体制を整備しているところです。
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