人材確保・育成

建設業の海外展開 ベトナム編

建設業の海外展開 ベトナム編

国土交通省総合政策局国際政策課 国際市場整備推進官 中井 倫太郎
国際協力機構(JICA)
一般社団法人 海外建設協会 総務部長 松井 波夫
向井建設株式会社
柏倉建設株式会社

 建設産業においては、アジアをはじめとする諸外国の市場に進出し、その成長を取り込むことが重要な課題となっています。東南アジアの新興国では、空港や原子力・水力発電所、高速鉄道、地下鉄などの受注合戦が活発になっていますが、国土交通省では、中でもベトナム建設市場に日本式の施工方法を熟知する技能者を増やすため、業界横断でベトナムからの研修生の育成・指導に注力しています。そして、こうした有能な人材を、会員企業が参画する現地プロジェクトで円滑に活用できる環境の整備を進めていくために「ベトナム建設人材育成推進協議会」が設立されました。
 本号では同協議会の取り組みを踏まえ、当基金が監理団体を担当する「外国人技能実習制度」について紹介します。

 

 

データでみるベトナム

 日本は昨年、ODAに加え、民間投資においてもベトナムで第1位となりました。日越両国の戦略的パートナーシップは深化しており、2011年10月に両国首脳による「日ベトナム共同声明」が署名されるなど、日本に対するベトナム側の期待は益々高まっています。ベトナムは社会経済開発10か年戦略(2011〜2020年)において、制度整備、人材育成、インフラ開発を重点分野と位置づけており、それを踏まえ日本の産業界、教育機関、自治体、NGO等とも連携しながら、2020年の近代的工業国化に向けたベトナムの国際競争力の強化、社会・生活面の向上と格差是正、環境保全ならびにガバナンスの強化を通じた公正な社会・国づくりの包括的な支援が行われています。
 現在進行中の円借款プロジェクトである南北高速道路、ハノイ市およびホーチミン市都市鉄道の建設に続き、今後同様の大型化、高度化するインフラ開発のニーズに応ずるためには、ODAに加え、民間の資金と技術を合わせた官民パートナーシップ(PPP)が重要となっています。

ベトナム国概要 / 支援実績

代表的な支援

交通インフラ(都市交通)

深刻な交通渋滞に対応するため、ハノイ及びホーチミンの都市鉄道建設を対象として、日本の経験・技術を活用した総合的な支援を実施
【支援内容】
都市交通計画、鉄道技術基準の
策定
都市鉄道建設事業への円借款供与(STEP案件)
運営維持管理に関する技術協力(鉄道運営会社の設立(東京メトロ、大阪市営地下鉄による協力)、料金徴収システム(SUICA)の導入等)
沿線・駅周辺開発計画の策定(官民連携事業の支援)

交通インフラ(高速道路)

南北高速道路の建設に対して円借款供与とあわせ、日本方式の道路情報管理・料金徴収システム(ITS/ETC)の導入を促進

交通インフラ(橋梁)

我が国の優れた橋梁技術やノウハウを活用し、ベトナムにおける日本技術の普及と日本企業の投資を促進。
【代表例】
ニャッタン橋(日越友好橋)建設事業
日本が開発した「鋼管矢板工法」をベトナムで初めて本格的に採用し、軟弱地盤でも迅速な基礎工事が可能となった。
越建設省による同工法の標準化と銅管需要の増加を踏まえ、日本の主要メーカー2社は2011年より、ベトナムを海外における鋼管製造拠点とし、ホーチミン近郊に工場を建設・操業開始。

中小企業・裾野産業振興

中部トゥアティエン・フエ省海岸地区における洪水の状況

中小企業の数は全企業数の98.8%
越日系企業の部品・原料の現地調達率は24%(タイ:56%、インドネシア・マレーシア:40%台)
裾野産業の育成は日系企業の製造拠点の確保、国内製造業の発展のために必要不可欠
【支援内容】
裾野産業振興に関する具体的施策の立案
中小企業向け融資促進のための円借款供与
中小企業経営者・技能者育成
日系企業と連携した工業大学カリキュラムの策定・実施
円借款、技術協力、ボランティアの有機的連携を図り、中小企業・裾野産業育成を支援
我が国中小企業のベトナム進出に資する現場の情報を提供

都市水環境改善

主要都市の下水管への接続率は20〜35%、ハノイでは小規模の下水処理場があるのみ
多くの工業団地で排水処理施設が未整備
都市内の河川・湖沼の水質汚染を軽減し、都市の生活環境改善を図る
技術協力と円借款の両スキームを有機的に関連づけ、水環境改善に向けた支援を実施
【支援内容】
汚染源対策の立案・実施、違反監視強化
汚染源の測定、分析・評価を担う人材育成
排水・汚水処理施設建設への円借款供与
日本の自治体との協力を促進(ハイフォン市/北九州市等)

防災

近年、中部地域を中心に毎年のように台風被害が発生。洪水被害の増加に対し、日本の経験・技術を生かした防災協力のニーズが高まっている。
【支援内容】
行政による防災計画の立案、コミュニティ防災手法の開発・普及等を技術協力で実施
堤防・排水施設・予警報システム等の施設整備、観測衛星の開発・データ活用(宇宙センター事業)
気候変動による影響予測を取り入れた災害対策の実施

気候変動

出典: MONRE(ベトナム国天然資源環境省)

長い海岸線、河口付近に広大なデルタ地帯を持つベトナムは、世界の中でも気候変動の影響を最も受けやすい国の一つ。
特にメコンデルタへの影響が甚大で、1mの海面上昇によって60%以上の土地が喪失すると予測(下図の赤色部分)。
【支援内容】
 気候変動対策のための制度改善を目的として、JICAがベトナム政府とドナーの政策対話をリードし、政策アクションを促進するための財政支援(円借款)を実施。
 メコンデルタ地帯の塩水遡上等の気候変動影響への対応を策定するため、開発調査を実施。

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