■ 創業/1908年8月1日 ■ 本社/東京都千代田区 ■ 社長/遠藤 和彦 ■ 従業員数/722名(2013年6月)
■ 事業/とび土工・コンクリート工事、型枠工事、鉄筋工事、建築一式工事・土木一式工事など
ベトナムに国際職業訓練校を開設
2009年よりベトナム人技能実習生の受入れを行っている向井建設。その目的について常務取締役・経営企画部の池上朋之部長はこう語る。
「国内の労働者不足を補うことではなく、ベトナム人技術・技能者のレベルを高めることであり、日本のゼネコンが海外で工事を受注した際にそういった研修生を使ってもらえるようにすることです。加えて言えば、一人でも多くの親日家をつくり、日越友好のさらなる向上にも役立てたいと思っています」
受入れで研修生は、まずベトナム現地の国際職業訓練校で4カ月の基本研修を受け、それから日本で3年間の技能実習に入る。国交省の指導を踏まえて設置したという国際職業訓練校は、ベトナム北部ニンビン省にあり、団体生活を送りながら「日本語の基礎」「安全品質・工程管理ノウハウ」「日本式の施工技術・技能」などを学ぶ。研修はそれぞれの訓練生の職歴や能力、特性に合わせ、とび、型枠、鉄筋工の3職種(今年12月研修開始予定の4期生では、内装を加えて4職種)に分かれている。
ベトナム人通訳を介して会長の考え方を伝授
同社では、実習生の教育係として「生活指導員」「実習指導員」を設けるとともに、今春、ベトナム人女性の通訳のファム ティー タン ロアン氏を正社員に起用して多角的にサポートに当たっている。生活指導員は、主にプライベートで困っていることや、悩んでいることに対して相談に乗り、手助けをする。生活指導員を務める経営企画部の伊坂匡史係長に、現状をお聞きした。
「通訳のない頃はコミュニケーションがうまく取れず、苦労しました。例えば『お腹が痛い』と言われても、どう痛いのか、病院に行くべきか薬で処置できるレベルなのか判断が難しい。給料明細の説明を求められても言葉の障壁がありました。でも、現在は通訳がいるので、処置に困ると通訳の出番になります。実は、この取り組みは弊社の向井敏雄会長の肝いりでスタートしたもので、通訳は会長と同フロアに席があることから、会長(=会社)と接する機会が多く、その考え方を熟知し、逐一実習生に伝授することができます。通訳の存在は、実習生と受け入れる側の双方に大きなメリットになっていると思います」
実習指導員、生活指導員が技能実習生をサポート
一方、実習指導員の仕事は、技術的な面での指導が中心になるが、実習指導員の宮沢典雅氏は「人間関係も重要なポイント」と言う。
「ベトナム人と日本人がペアを組んで作業することもありますが、その時に双方の性格を考慮して組み合わせないとトラブルの元になります。ベトナム人の間でも北と南の出身者では風習が違いますからね。一般常識でも日越双方で異なる部分が多く、その認識の違いから思わぬトラブルに発展することもあります。これを回避するためにも、双方がお互いの文化・風習を知り、理解度を深めることが大切。これは、海外実習生を受入れる際の基本だと思います。
課題としては、実習期間の短さです。10年でやっと一人前と言われる職人の世界で、3年では『ようやく技能が身に付いた』という頃に帰国になってしまう。師弟関係の基盤が出来上がって、さぁこれからという時に終了するのが少々残念ですね」
同社では、これまでの3年間で得た経験や知識をもとに、ベトナム人実習生の受入れで悩んでいる企業へのアドバイスも積極的に行っていくそうだ。
■ 創業/1955年 ■ 本社/北海道札幌市 ■ 社長/柏倉 一大 ■ 従業員数/85名(2012年)
■ 事業/型枠大工専門工事業、土木工事業
北海道札幌市に本拠を置く柏倉建設は、今年3月よりベトナム人技能実習生の受入れを開始した。この背景には、関連ゼネコンのベトナム進出を想定し、その際に「優秀なベトナム人型枠職人を確保しておきたい」という狙いがある。いわば将来に向けた投資の一環である。昨秋、同社の柏倉社長と幹部社員がベトナム現地の国際職業訓練校を視察し、研修生の中から「型枠大工を志望する実習生」を選抜した。30歳を筆頭に、29歳、23歳の3名の若者である。
現在、彼らは茨城県牛久市の社員寮に居住しながら実習する日々を送っている。現場は、東京都板橋区の19階建ての新築マンション(免震構造)。ほぼ着工時に配属され、来年6月の竣工まで、「日本式型枠大工の一連の作業」を実習する予定だ。なお、技術的な指導については、同現場の職長である石塚仁氏(58歳)を責任者として、型枠大工3名が、ほぼマンツーマンで指導にあたっている。
強いモチベーション、必死さが伝わってくる
未知の国に来たベトナム人はもちろんだが、受入れる側にとっても戸惑うこともあっただろう。東京事務所の大川隆二所長にお聞きした。
「最初の頃は、言葉の壁を感じたこともありました。ベトナムで日本語を勉強してきたと言っても、少し込み入った話になると『こっちの言っていることが、本当に伝わっているのか?』と不安になることもありました。しかし、彼らの『3年で一人前になる!』そんな必死さが伝わってくるにつれ、不安は期待へ変わりました。受入れから半年が経過しましたが、大きな問題もなく順調に推移しています。仕事に対する姿勢は日本の若者以上ですね。朝寝坊をして遅刻したり、無断で休んだりする若者が多い中で、彼らはそんなこともなく、逆に『日曜日も仕事したい』と言っているんですよ。やる気があれば仕事を覚えるのも早いですからね」
生活面でのサポートについては当初から社員寮で一緒に団体生活をしている石塚職長が、近くのスーパーやコンビニ、ホームセンターなどに案内した。入寮した3人が真っ先に言った要望は「パソコンを買いたいので手伝って」。そこで、秋葉原に連れて行って格安のパソコンを入手したが、社員寮はまだネット環境が整備されていなかったので、急いでネット環境を整備したそうだ。
現在の3人が兄貴分に新入りの面倒を見る体制へ
普段の彼らは、月曜から土曜まで、早朝5時に寮を出発。全員で社用車に乗って板橋区の現場には6時過ぎに到着。出発が早いのは渋滞を回避するためだ。8時に始業し、お昼休憩をはさんで18時に終業。再び社用車で寮に帰ると20時頃。実習生たちは夕食のみ寮の食事を頼み、朝と昼は自分たちで用意している。彼らなりに母国の食事に近づけるよう工夫しているようだ。休日は買い物に外出するくらいで、基本的には、部屋でベトナムにいる家族や友人たちとネット通信を楽しんでいるという。 では、今後の展望はどうだろうか。
「近々新たに4名のベトナム人実習生を受入れる予定です。現在の3名が兄貴分として、新入り実習生の面倒を見てくれるような仕組みになれば理想的。これが軌道に乗りベトナム人型枠職人を数多く輩出できれば、ベトナムの経済発展にも貢献できるだろう。必ず実現してみせますよ!」
大川所長は力強くこう宣言した。