人材確保・育成

建設業の海外展開 ベトナム編

建設業の海外展開 ベトナム編

国土交通省総合政策局国際政策課 国際市場整備推進官 中井 倫太郎
国際協力機構(JICA)
一般社団法人 海外建設協会 総務部長 松井 波夫
向井建設株式会社
柏倉建設株式会社

 建設産業においては、アジアをはじめとする諸外国の市場に進出し、その成長を取り込むことが重要な課題となっています。東南アジアの新興国では、空港や原子力・水力発電所、高速鉄道、地下鉄などの受注合戦が活発になっていますが、国土交通省では、中でもベトナム建設市場に日本式の施工方法を熟知する技能者を増やすため、業界横断でベトナムからの研修生の育成・指導に注力しています。そして、こうした有能な人材を、会員企業が参画する現地プロジェクトで円滑に活用できる環境の整備を進めていくために「ベトナム建設人材育成推進協議会」が設立されました。
 本号では同協議会の取り組みを踏まえ、当基金が監理団体を担当する「外国人技能実習制度」について紹介します。

 

 

我が国建設業の海外市場進出の現状と課題

平成24年度の海外進出の現状

 わが国建設業の2012年度(平成24年度)の海外受注は、アジアを中心に、日系製造業の海外進出の動向が前年度に続き堅調に推移したこと、また、堅調な米国経済を背景に、米国での受注が大幅に回復したものの、1兆1,800億円にとどまった。
 これを、主要地域別にみると、アジアにおける受注は、8,590億円で、前年度に比し、1,272億円減少したが、同地域に対する日系製造業の進出が前年度に続き堅調に推移し、これに伴う工場案件の受注がタイ及びインドネシアで順調に伸びている。
 工事分野別にみると、1位は、工場で5,364億円(全体比:45%)、2位は商業ビルの1,071億円(9%)、以下、住宅の994億円(8%)、公共施設の636億円(5%)、道路の592億円(5%)、発電所の423億円(4%)、リニューアルの389億円(3%)、港湾・海岸の376億円(3%)、鉄道の347億円(3%)、都市土木の334億円(3%)の順となっている。顕著な伸びを示したのは、工場の368億円増、発国別では、1位は、タイの1,966億円、2位は、シンガポールの1,743億円、3位は、米国の1,687億円、4位は、インドネシアの1,056億円、5位は、中国の787億円、次いで、ベトナムの752億円、台湾の526億円、香港の391億円の順となっており、上位10ヵ国で、受注全体の80.8%を占めている。

海外進出の課題

(1)情報の収集
 建設業が戦略的に海外展開を行うためには、海外建設活動に係る正確な情報を適時収集し、これを最大限に活用して国際競争力の強化を図ることが不可欠である。
 また、プロジェクトの採算性向上にとって、技術的、資金的、社会的な面など多面的なリスク分析を行うことが重要であり、より厳密なリスクの分析のための正確な情報の入手も重要となっている。

(2)受注競争の激化
 海外市場における受注競争は、大変激しい状況にある。特にコスト競争面では、中国、韓国さらに地元建設業者などとの競争に打ち勝つことは至難の技である。
 このため、日本の高度な技術、施工面におけるきめ細かい品質・工期・安全管理などの特長が評価され、これらが活かせるプロジェクトに、各社がそれぞれ得意な国、得意な技術で狙いを絞ることが重要となっている。

(3)人材の育成
 海外でプロジェクトを遂行していく上で、海外要員の確保は、大変重要な課題となっている。海外工事は、日本国内の仕組みとは異なる環境で、日本から遠く離れて行われる。特にプロジェクトマネージャーは、迅速かつ適切な判断が求められるため、その力量が工事の成否に大きく影響する。海外プロジェクトの受注拡大及び利益確保を図る観点から、プロジェクトマネージャーをはじめ多様な海外要員の育成は、企業等にとって喫緊の課題となっている。

(4)リスクの対応
 海外事業の拡大やプロジェクトの大型化にともない、様々なリスクが顕在化し、さらに増加しており、これらが収益性を圧迫する可能性がある。カントリーリスクからプロジェクト固有のリスクまで幅広いこれらリスクをいかに最小限化を図るかが、プロジェクトの成否を左右している。

(5)PPP等の取組み
 海外事業の拡大及び新たなビジネスの創出を図るためには、単なる施工のみの請負から、PFI、PPP、D&Bなど多様な契約形態も視野に入れ、日本の建設企業が有する総合力を発揮できるプロジェクトを発掘していくことが重要となっている。

(6)ODA案件
 わが国ODAの予算全体が減少傾向にある一方、わが国企業の円借款案件を中心としたODA案件の受注率が低下している。さらに、片務的契約や税金問題などから、利益の確保が難しい条件も散見される。

(7)今後の見通し
 今後の海外市場の見通しは、アジアなどの新興国を中心に市場の拡大が期待される。また、堅調な経済を背景に米国市場の受注の伸長も期待されるほか、不確定要素はあるものの、中東市場での受注が順調に回復・伸長し、昨年度をさらに上回ることが期待されている。

海外人材の育成・研修

 海外建設事業を取り巻く環境の変化は著しくプロジェクトの大型化や複雑化、契約形態や資機材調達の多様化などが進む中、課題も増えています。事業を実施するのは人であり、円滑に事業を進めるためには、優秀な人材が必要不可欠であり、今後、海外プロジェクトをさらに発展させ、安定した収益を確保するためには、優れた海外人材の育成が大変重要となっています。
 海外プロジェクトの成否は、プロジェクトを担当する海外要員、特に、プロジェクトマネージャーの能力に負うところが大きいといえます。海外のプロジェクトにおいては、日本から遠いこともあり、工事を成功裏に完成し、所定の利益がだせるかどうかは、ひとえにプロジェクトマネージャーの力量により、責任は重大です。プロジェクトマネージャーでも、最も不足しているのは、発注者及びコンサルタントが外国で、一切日本企業が絡んでいない、いわゆる国際工事といわれるプロジェクトを遂行できるプロジェクトマネージャーです。わが国の建設企業は、いまだに、クレーム交渉能力、契約管理能力などが先進諸国などに較べて劣っているといわれており、国際競争力を高める観点から、クレーム交渉能力、契約管理能力を有するプロジェクトマネージャーの育成は喫緊の課題となっています。
 海外要員を育成する最良の方法は、OJT(On The Job Training)ですが、一概に海外事業といっても、国により、また、工事の種類、契約の形態及び施工の体制などにより、現場運営の難易度が異なるため、海外要員を適材適所に配し、育成することは簡単ではありません。
 建設各社とも、海外現場経験の豊富な社員の高齢化、また、団塊世代の定年などから、中堅、若手社員の育成が急務となっています。折角仕事を入手できても、それをこなせるプロジェクトマネージャーがいないとなれば問題であり、不慣れなため赤字を蒙る結果にもなりかねません。
 海外でのプロジェクトの受注が増えれば、当然、プロジェクトマネージャーも多く必要になってきます。海外でのプロジェクトマネジメント経験者が不足すると、国内の経験者を配することが考えられますが、国内現場では優秀な所長であっても、海外においては、国内では予想もしえない問題が起こりますので、国内での能力が充分に発揮されない懸念もあります。海外のプロジェクトマネジメント経験者をはじめとする海外人材の育成は、海外展開を推進する建設各社にとって喫緊の課題となっており、今後、地道に、粘り強く、継続的に行っていくことが必要です。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ