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建設産業におけるBIM

建設産業におけるBIM

BIM(Building Information Modeling)は、略して「ビム」と呼ばれ、建築の3次元形状に加え、仕上げ・設備機器・配管・価格・維持管理まで含んだ情報による3次元のバーチャルな建築モデルのことです。BIMの登場によって、手描きや2次元CADで設計してきた建築家は3次元でデザインを思考し、プレゼンテーションを容易に行えるようになりました。また、BIMの導入によってあらゆる建築情報が一元的に管理され、しかも各担当者が常にアクセスできる状況に置かれるため、建設・運営プロセスにおいて大きな変革をもたらすものと期待されています。そこで今回の特集では、BIM分野の第一線でご活躍の方や、さまざまな角度からBIMの現状と今後の展望についてご紹介いただきます。

 

 
官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトについて

はじめに

 国土交通省では、「国土交通省CALS/ECアクションプログラム2008」に基づく具体的な実施項目として、「3次元データを活用したモデル設計・施工の実施」を挙げている。

 その一環として、官庁営繕部では、BIMを用いた設計の試行を行うことを平成22年3月に報道発表した。

 官庁営繕部では、設計・施工から維持管理に至る過程で一貫してBIMを活用することが、施設整備・保全に係る行政コストの削減、官庁施設の品質確保及び官庁施設における顧客満足度の向上に資すると考えており、BIMによるメリットが営繕業務にもたらす変化の可能性として、次の①~③に着目し、これら三つの観点からBIM導入の効果・課題等を検証することとしている。(図1)

BIM導入により想定されるメリット

 

対象業務の概要

設計内容の可視化による変化
 設計の透明性・説明性が高まり、関係者間における意思決定の迅速化。

建物情報の入力・整合性確認による変化
 官庁施設に必要な性能水準と合致した設計の効率的・効果的な実施。

建物情報の統合・一元化による変化
 設計・施工を通じて、施設管理者による施設の運営・管理や官庁施設のファシリティマネジメントに活用可能な建物情報モデルの構築。
 ここでは「新宿労働総合庁舎外設計業務」におけるBIMの活用の試行を通じて見えてきた効果や課題、今後のBIM導入の試行の予定等について紹介する。

 

 

 

試行の概要

 本試行では、BIMモデルを活用した配置・立面計画等の比較検討、基本的な設計図書の作成に必要な情報が入力されたBIMモデルの作成、通常の設計とのプロセス等の違いの検証、BIMモデルを使用した工事費概算等を実施した。本試行の概要について以下の①~⑤に示す。

設計与条件の可視化

● 法規制等による建築可能範囲をBIMにより可視化
● 周辺の敷地や建物輪郭等の情報を含むBIMモデルを作成し周辺環境と建物の相互の影響を整理

基本設計方針策定段階における試行概要

● 整備イメージを検討するための外部空間(整備施設外観、当該敷地形状、周辺の敷地・建物を含む)が確認できるBIMモデルを作成
● 配置計画及び所要室の配置・面積等の必要な条件をもとに、BIMを用いて施設機能の空間ゾーニングを作成
● 周辺を含む日影解析
● BIMモデルを活用して配置計画・立面計画等の比較検討
● BIMを使用しない通常の設計と今回の試行におけるBIMによる設計とのプロセスの違いを確認

基本設計段階における試行概要

● 基本設計図を作成するために必要な情報が入力されたBIMモデルを作成
● 意匠と構造間の設計整合性の確認
● BIMモデルの数量算出機能を用いて算出した数量により工事費概算を作成
● BIMを使用しない通常の設計と今回の試行におけるBIMによる設計とのプロセスの違いを確認
● 実施設計の成果物のうち、実施設計図(仕上表・平面図・立面図・断面図・展開図・天井伏図(天井開口リストを含む)・建具表のほか、技術提案書により提案した図面)を作成するために必要な情報が入力されたBIMモデルを作成
● 仕様やディテール等を作り込む際には、BIMモデルで確認
● 意匠と構造間の設計整合性の確認
● BIMモデルより実施設計図(仕上表・平面図・立面図・断面図・展開図・天井伏図(天井開口リストを含む)・建具表のほか、技術提案書により提案した図面)を出力するための調整
● BIMモデルより特定行政庁等への各種申請図書(二次元で表現されたもの)を出力するための調整
● BIMモデルの数量算出機能を用いて算出した数量により工事費概算を作成
● BIMを使用しない通常の設計と今回の試行におけるBIMによる設計とのプロセスの違いを確認

実施設計段階における試行概要

● 実施設計段階のBIMモデルの数量算出機能を用いて算出した数量と「公共建築工事積算基準」の躯体の区分により算出した数量を各部毎に比較

 

試行の結果

 本試行を通じて見えてきたBIMのメリットと課題を紹介する。

1)設計初期段階における効果や性能の確認

 一般に、建物が完成後に期待した通りの性能や効果が発揮できるかどうかは、設計段階では定性的な評価が多い。これらを検証するための手段として施工段階でのモックアップの作成や試験施工等を実施することがあるが、効果が期待通りでない場合には設計変更等の手戻りが生じてしまう。一方、設計段階でシミュレーションを行えば、早い段階で具体的な効果を机上で確認できる。本試行においても、環境シミュレーション等を基本設計段階から活用し、効果を具体的に確認しながら進めた。これは施設整備全体の手戻りのリスク低減に繋がる大きなメリットであると考えている。

2)BIMによってもたらされた変化の具体例

斜線制限や敷地条件の可視化
設計与条件の可視化 複雑で立体的な設計与条件をBIMにより可視化することで、建築プランの検討を迅速に実施できた。
 地上階の建築可能なボリュームチェックにより、地下階の計画を見直し、土工事等の縮減が図れた。(図2)

 

 

 

 

室内の自然採光の効果検証の例

[ライトシェルフの効果]
 設計の初期段階にBIMモデルを活用した自然採光導入のためライトシェルフの効果を検証した。効果の少ないと判断されるものは導入を取りやめ、詳細設計の確認や施工段階のモックアップ検証に至る前に、効率的に導入検証と採否の判断ができた。(図3)

 

 

 

建物内の自然換気の効果検証の例

[自然換気の流れと温度分布]
 同様に、設計の初期段階に自然換気の効果を検証し、自然換気をより効果的にするために開口部を追加する判断を行った。(図4)

 

 

 

 

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