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建設産業におけるBIM

建設産業におけるBIM

BIM(Building Information Modeling)は、略して「ビム」と呼ばれ、建築の3次元形状に加え、仕上げ・設備機器・配管・価格・維持管理まで含んだ情報による3次元のバーチャルな建築モデルのことです。BIMの登場によって、手描きや2次元CADで設計してきた建築家は3次元でデザインを思考し、プレゼンテーションを容易に行えるようになりました。また、BIMの導入によってあらゆる建築情報が一元的に管理され、しかも各担当者が常にアクセスできる状況に置かれるため、建設・運営プロセスにおいて大きな変革をもたらすものと期待されています。そこで今回の特集では、BIM分野の第一線でご活躍の方や、さまざまな角度からBIMの現状と今後の展望についてご紹介いただきます。

 

 
3)情報共有・コミュニケーション

BIMを使った打合せの様子 本試行では、設計者と設計業務の発注者である営繕技術者との打合せは、プロジェクタでパソコン内のBIMモデルをスクリーンに映しながら行った。(図5)打合せ中に出された提案は、その場でBIMモデルに反映され、改善案として具体的に示された。(図6)このため、多様な提案を素早く検討することができ、限られた期間のなかでより良い設計を行うことが可能となった。さらに、全員でモデルを囲んで議論することで、新たな気づきやさまざまなアイデアが出てくることが期待できる。また、言葉での情報共有は人によって捉え方が異なっている恐れがあるが、BIMでは具体的に目で確認できることから、確実な情報共有が可能となる。

これにより、設計関係者の間での情報共有はもちろん、入居予定官署の担当者等建築の専門家ではない関係者に対しても具体的で理解が容易なプレゼンテーションが可能になる。このようにBIMはコミュニーションツールとしても有効であると考えられる。

4)整合性向上による業務管理改善

本試行では、建築分野の主要な図面については単一のBIMモデルから出力しているため、図面間の不整合が生じない。(図7)

基本設計のBIMモデル

単一のBIMモデルからの図面出力

 

 

 

図面間の整合性確保

 図面間の食い違い等を捜すような、いわばあまり生産的でない行為は設計者にとってかなりの負担であるが、こうした作業が軽減され、設計の本質的部分に労力を注ぐことができる。同時に設計業務の発注者にとっても業務の管理がより容易になる。また、作成途中のBIMモデルからでも2次元の図面を出力することができるので、これを利用して図面作成の進捗状況を実施設計の途中段階で確認することにより、発注者にとっても業務の管理がより容易になると考えられる。(図8)

 

 

 

5)概算精度の向上

BIMによる建設コストの概算

基本設計段階からBIMモデルにより精度の高い数量の算出が可能となったため、コスト管理を容易に行うことができた。(図9)

 

 

 

 

 

 

6)試行により得られた課題

 このようにBIMを活用することにより、発注者と受注者の双方にメリットがある一方で、設計段階での作業の進行が従来よりもスピーディになり、意志決定の段階が前倒しになることから、発注者側の設計与条件の整理が不十分だったり判断が遅くなったりすると作業が滞ってしまう。
 つまり、BIM導入のメリットである設計業務の前倒し(BIMでは、「フロントローディング」という用語が使われている。)を実現するためには、初期段階での適切な与条件整理や企画立案、提案に対する迅速な判断が重要なポイントであり、その意味ではBIMの活用は設計者のみならず、発注者の企画力・判断力も試されるものであると言えよう。
 BIMを使うための課題としては以下の2点が課題として考察された。

❶ BIMデータの入力条件の整理
 建物は、柱、梁、床、壁、天井、電灯、空調、衛生、通信、消火といった部位・部材や工事区分、コンクリート、モルタル、鉄筋、鉄骨、ガラス等の材料やその仕様等に関する多種多様な属性情報と形状情報を持っている。BIMモデルは、それらの属性と形状情報から構成され、上述してきた設計プロセスにおける検証を実現するには、設計のどの段階で、どのような内容を、どのくらいの精度(縮尺)で入力するか、といったBIMデータの入力条件について設計者等の関係者間で予め整理しておくことが重要である。

❷ 迅速な意思決定
 前述したフロントローディングを実現するためには、設計や施工時の意思決定者(一例としては建築主となる者、若しくはその代理者)が、設計や施工に着手する前に設計与条件を的確に整理し、設計者から提示された提案や検証結果に対して迅速に判断をしていく必要がある。

 

今後のBIM導入の試行に係る取組の予定

1)設計段階における試行

 新宿労働総合庁舎のほかに、静岡地方法務局藤枝出張所設計業務及び前橋地方合同庁舎(仮称)外設計業務において、設計段階でのBIMの活用の試行を行っている。
 静岡地方法務局藤枝出張所は延べ面積が約3,000㎡の事務庁舎で、新宿労働総合庁舎の試行と同様に、基本設計段階から実施設計段階にかけて、BIMモデルを活用した配置・立面計画等の比較検討、基本的な設計図書の作成に必要な情報が入力されたBIMモデルの作成、BIMモデルを使用した工事費概算等を行い、通常の設計とのプロセスの違いやBIMによる効果・課題の検証を行うこととしている。
前橋地方合同庁舎は延べ面積が約17,000㎡の比較的規模の大きい事務庁舎である。この試行では新宿労働総合庁舎で試行した項目に加え、以下の項目を実施するとともに、そのBIM導入の効果・課題等を検証することとしている。

● 動画での景観シミュレーションによる建物の配置及び形状等による周辺の景観への影響の確認
● BIMモデルを用いた敷地周辺の風環境のシミュレーション解析
● BIMモデルを用いた室内の採光、通風、熱負荷のシミュレーション解析及び建物の形状、配置、開口部等の検討への反映
● 実施設計の成果物のうち、建築意匠一般図の他、伏図・軸組図等を作成するために必要な情報が入力されたBIMモデルの作成
● 基準階の天井内等の納まりについて特に確認を要する部分について、BIMモデルを用いた建築・設備の干渉チェックによる整合性の確認

2)施工段階における試行

平成24年度から着工する新宿労働総合庁舎建築工事において、設計段階で作成されたBIMモデルを活用し、以下の項目について施工段階における試行を行い、設計段階での試行と同様にプロセスの違いやBIM導入の効果・課題を検証することとしている。

● 設計段階で作成されたBIMモデルを活用した基準階施工図の作成
● 基準階天井内、主要設備室及び地下ピット内の建築・設備等の干渉チェックによる整合性確認
 その他、気象庁虎ノ門庁舎(仮称)・港区立教育センター整備等事業と中央
 合同庁舎第8号館整備等事業の2件のPFI事業において、それぞれ事業者提案により、設計から維持管理までを通した情報の一元管理などを目標としてBIMの導入に取り組んでいるところである。

 

おわりに

 官庁営繕部は設計・工事の発注者としてだけでなく、官庁施設の企画・計画、設計監理、施工監理・検査、保全指導等を通じ、建築物のライフサイクル全般に関わることができる立場にある。こうした立場を活かして、これまで主に取り組んできた設計業務におけるBIM活用に加え、施工・維持管理・運営を含む建築生産プロセス全般において、BIMがどのように活用できるのか今後、検討していきたいと考えている。

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