2016.10.20
技能者の頂点の資格として 登録基幹技能者制度の活用の現状|1 公共工事の入札制度における「登録基幹技能者」の評価と活用状況
平成8年度に民間資格として制度がスタートした「基幹技能者制度」は、平成20年の建設業法施行規則改正に伴い、国土交通大臣の登録講習制度として位置づけられ、資格の名称も「登録基幹技能者」とし、公共工事の入札制度や元請企業の技能者評価、厚生労働省の助成金の対象や政府の新たな経済対策の中でも活用が検討されるなど大いに注目を集める資格制度となっています。
登録基幹技能者は熟練した能力と豊富な知識を持ち、効率的に作業を進めるマネジメント能力を備えた技能者であることを証明する資格であり、建設現場における品質確保や安全管理に厳しい視線が集まる中、今後更なる活用が図られることが期待されます。
今回は、この登録基幹技能者制度の広まりと活用の現状について紹介します。
1 公共工事の入札制度における「登録基幹技能者」の評価と活用状況
公共工事では、総合評価落札方式の評価項目として、登録基幹技能者を評価対象として活用する発注機関が年々増加しています。登録基幹技能者を配置する提案を行った元請企業が加点評価される制度です。
国土交通省では、平成17年度に北海道開発局が初めて導入し、現在では全ての機関で評価の対象となっています。都道府県では、平成19年度に長崎県が導入を行い、平成27年度は15道府県、3政令市で導入されています。また、都市再生機構等の独立行政法人、平成28年度には高松市が中核市では初となる導入を開始するなど、評価・活用は着実に進んでいます。
発注機関 | 工事件数 | ||||
H23年度 | H24年度 | H25年度 | H26年度 | ||
国土交通省 | 北海道開発局 | 3 | 5 | 14 | 5 |
東北地方整備局 | 0 | 11 | 507 | 1,060 | |
関東地方整備局 | 3 | 3 | 62 | 210 | |
北陸地方整備局 | 2 | 2 | 5 | 3 | |
中部地方整備局 | 4 | 5 | 4 | 12 | |
近畿地方整備局 | 25 | 34 | 657 | 460 | |
中国地方整備局 | 36 | 124 | 204 | 407 | |
四国地方整備局 | 5 | 31 | 47 | 350 | |
九州地方整備局 | 90 | 713 | 1,252 | 727 | |
沖縄総合事務局 | 232 | 132 | 164 | 126 | |
合計 | 400 | 1,060 | 2,916 | 3,360 | |
都道府県 | 北海道 | 340 | 198 | 196 | 138 |
茨城県 | - | - | - | - | |
神奈川県 | - | - | 3 | 6 | |
新潟県 | - | - | - | 4 | |
富山県 | - | 2 | - | 2 | |
長野県 | 10 | 8 | 10 | 8 | |
静岡県 | - | - | 2 | 7 | |
三重県 | - | - | - | - | |
滋賀県 | - | - | 22 | 74 | |
京都府 | 9 | 11 | 13 | 29 | |
大阪府 | 2 | 4 | 13 | 32 | |
島根県 | - | - | - | 3 | |
長崎県 | 87 | 78 | 113 | 116 | |
熊本県 | - | - | - | 4 | |
大分県 | - | - | - | 178 | |
合計 | 448 | 299 | 374 | 601 | |
政令指定都市 | 札幌市 | - | - | - | - |
仙台市 | - | - | - | - | |
静岡市 | - | 54 | 45 | 50 | |
合計 | - | 54 | 45 | 50 |
平成28年6月10日、登録基幹技能者制度推進協議会は国土交通省に対し、登録基幹技能者の公共工事でのさらなる活用や主任技術者の位置付けなど、資格の適正な評価と有効活用についての要望書を提出しました。この要望活動の目的や登録基幹技能者を輩出する専門工事業界の課題について、協議会の三野輪会長((一社)日本型枠工事業協会会長)にお話しを伺いました。
「国土交通省に提出された要望の主旨」1.公共工事における評価・活用の促進
2.建設業法上の主任技術者としての位置づけ
3.建設キャリアアップシステムにおける位置づけの明確化
平成20年度の法改正により登録制度となり8年が経過しましたが、この資格の最終的な活用の形がなかなか見えてこないことが制度展開において大きな課題となっています。公共工事の受注の際に役立つという業者もありますが、都心部で民間の工事しか受注しない業者では資格のメリットはほとんど無いのが現状です。大手ゼネコンでは有能な職長を評価する基準の一つとして登録基幹技能者の資格を要件としているところもありますが、まだごく部分的な活用にとどまっています。つまり、登録基幹技能者の資格の取得の目的やメリットが専門工事業者にとっても技能者にとっても未だ明確になっていない。このような状況が有資格者の1割程度が5年ごとの更新をせず、資格を放棄するという大きな課題を抱える要因となっています。まずは、資格を持つ技能者自身にとってメリットがある制度にしなければならないと考えています。
今回、登録基幹技能者制度の活用の拡大のために上記の3点について国土交通省に要望しました。
我々としては、まずは、登録基幹技能者が主任技術者の要件として位置づけられることが重要だと考えています。登録基幹技能者が評価されている元請では、「優秀な職長」と認定され元請ゼネコンから手当が出るなど、資格を持っている技能者とそうでない者は明らかに待遇にも違いが生じています。評価されていることにより登録基幹技能者自身も「期待に応えよう」という意欲的な姿勢の源となっており、評価が好循環を生んでいます。登録基幹技能者が主任技術者の用件となり、公的にも評価されれば、有資格者自身にも彼らを雇用する専門工事業者にとっても明確な目標となり、更なる制度の展開や定着に大いに寄与することとなります。
現在、建設業界に求められている「品質」という課題についても、登録基幹技能者の資格取得の講習において使用される「共通テキスト」に、法規則やQCDS(Quality;品質、Cost;価格、Delivery;工期、Safety;安全)また倫理、法令遵守が講習科目として設定されています。また、5年ごとに資格を更新する際にも講習等を受けますが、これが貴重な教育の機会となっています。通常、一度現場に出た職人が教育を受ける機会はほとんどありません。資格更新時に最新の情報にて学び直すことは、技能者の能力担保につながり、ひいては発注者や元請にとっても大きなメリットとなっています。
登録基幹技能者制度の更なる活用のためには、要望するだけでなく、我々としても取り組むべき課題があります。一つは、職種によって顕著に見られる地域偏在性の解消です。できるだけ各都道府県に、33職種それぞれの登録基幹技能者を育成していく。これは早急に解決していかなければならない課題です。
もう一つは、教育のさらなる向上です。各団体で努力していますが、教育内容や教育方法、講習修了後の試験(評価)の内容、講習の実施方法等、さらにレベルアップさせていくことも必要と思います。主任技術者としての位置づけを要望するならば、我々も教育する側として最上位の技能者を育成するという意識を持つことが必要です。
「登録基幹技能者の資格を備えた主任技術者」となることが技能者の最終目標となるよう、継続して要望するとともに、我々、専門工事業界としても課題の解決に向け、自らが登録基幹技能者の育成や教育に真摯に取り組んでいくことが重要であると考えています。
特集 技能者の頂点の資格として 登録基幹技能者制度の活用の現状
■ 1 公共工事の入札制度における「登録基幹技能者」の評価と活用状況
■ 2 元請企業における「登録基幹技能者制度」活用事例
■ 3 行政等の施策としての登録基幹技能者制度の活用状況
■ 4 登録基幹技能者制度について
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