企業経営改善

建設産業の電子商取引

建設産業の電子商取引

株式会社 本間組 安全品質環境部ISO室 渋井室長
株式会社 本間組 管理本部経営企画部 情報システム課 吉川課長
株式会社 土屋ホールディングス 総合企画部次長 兼システム課 柴田課長
安藤建設 株式会社 社長室情報企画部 森田部長
安藤建設 株式会社 社長室情報企画部 西村副部長
鹿島建設 株式会社 建築管理本部 建築調達部 平野部長
鹿島建設 株式会社 建築管理本部ITソリューションフ部 渡辺部長

 我が国の建設産業は、建設投資の低迷、建設業者数と建設投資のバランスの崩壊など、市場の大きな構造変化の中で、受注の減少、利益率の低下などにより、従来にも増して厳しい経営環境に直面しています。特に地域の中小・中堅建設業においては、コスト管理などを十分に行わないまま収益性が低下している企業が少なくないため、建設工事の現場を含めて、コスト管理の徹底と経営効率化の推進を図る必要があり、ITの活用による工程管理の徹底、元請・下請間を含めた企業間取引のIT化など、経営効率化に向けた取り組みの推進が急務となっています。
 「CI-NET」は、建設産業全体の生産性向上を図るため、建設生産に関わるさまざまな企業間の情報を、ネットワークを利用して交換するための仕組み(取り決め)です。建設産業における企業間の商取引には、見積依頼などの商談から注文、請求、決済までいくつもの段階があり、その都度伝票などの情報のやり取りが行われています。CI-NETでは、これらの各段階で生じる情報を電子的に交換するため、建設業に最適な交換手段を業界標準として設定したものです。

 

 

「CI-NET」利用状況

この表はCI-NETを利用する際に発行される「企業識別コード」の地域別登録社数である。全国で約9,500社。国交省の調査によると平成23年3月末 現在の建設業許可業者数は49万8,806業者。まだほんの一部の建設業者しか利用していない現状がある。そして、利用している建設業者の大半が、比較的 大きな仕事の受発注が多い都市部のゼネコン、サブコンである。

地域ゼネコンへの普及が鍵を握る

 現在も下請け、二次下請け業者の多くは、見積りや受発注を紙ベースで行い、PCへデータ入力している。受発注が増えればこれらを処理する人員を必然的に増やす必要に迫られる。下請け、二次下請け業者にまで電子化を進めるためには、どうすべきだろうか。 
 元をたどれば発注元である地域ゼネコンがEDI化をしていなければ、その下請け、二次下請け業者もCI-NET恩恵を受けることは難しい。協力会社も EDI化と無縁になってしまう。発注元がEDI化すれば、必然と協力会社もEDI化をするはずだ。しかし、地方のゼネコンの現状は、地方へ行けばいくほど 都市部での仕事が減る。つまり日頃から地場の小さな仕事が多い地方ゼネコンにとって、「EDI化の必要性」や「メリット」が理解されにくい現状になっているのだ。

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「CI-NET」の導入効果

1207_05_tokusyu_1.jpg CI-NETの導入効果は、主に「時間的なメリット」と「コストの削減」の2つ。「見積り依頼・回答」の部分だけでも直接的な効果として、発送の手間、 連絡ミスなどの軽減や見積期間の短縮が見込まれ、複数の見積回答を容易に比較検討できるため、コストを抑えることができる。また、契約時の転記が不要とな り、単価登録作業が軽減される。
 また、CI-NETの導入企業は必然的に工事費をマネジメントできるようになる。いわゆる「どんぶり勘定」ではなく、経営の安定化が図られる。「確定注 文・注文請け」を利用することでも同様に時間的・コスト面でのメリットは少なくない。そして、これら数字としてのコスト軽減効果以外にも下記の効果が考え られる。
■EDI化により、受発注の処理業務が大幅に減少。CI-NETを導入した多くの企業が追加人員を削減できた。
■CI-NETはインターネットを利用するため、協力会社も含めセキュリティ体制が向上した。
■現場管理者の作業が減り、その分品質向上が可能になった。
■CI-NET加入取引業者間での取引の裾野が徐々に広がっている。

 

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「CI-NET」導入に向けて

 「何から始めれば?」と思っている人もいるかもしれないが、実はパソコンでインターネットができる環境が整っていれば電子化をスタートできる。それでも「電子化の敷居を上げている」要因は、以下のことが考えられる。
 公共工事における入札・納品「電子入札、電子納品」を「CALS/EC(キャルス/イーシー)」と呼ぶ。この概念をもとに、元請、下請間の取引情報を電 子化する仕組みが「CI-NET」なのだが、見積、注文、出来高、請求業務など、CI-NETで利用できるすべて機能を導入し、入札・納品までを電子化す るには、それなりの労力を要し、業務の仕組みの見直しを迫られる現状もある。

 

まずは小さくスタート「注文書と請書」のみを電子化

1207_05_tokusyu_3.jpg このような状況から、現在では企業に対してCI-NETの一部の機能である「注文書と注文請書」のみを利用し、徐々に業務の電子化をする働きかけが進ん でいる。発注側が確定注文を電子送付し、受注側のシステムに自動転記されると、受注側のシステムからは、注文請けが電子送付され、発注側がこれを受信する 単純な仕組みではあるが、これだけでも次のようなメリットが考えられる。
①入力内容の自動転記で手間を省く
②電子送付により送付コスト削減
③電子契約による印紙税の削減
④電子送付で安全な受発注の担保
 より多くの建設企業が参加し、業界全体を標準化していくことで、より大きなメリットを得ることができるのだ。


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