技能五輪全国大会の意義と役割
技能五輪全国大会は、23歳以下(一部の職種を除く)の青年技能者が技能レベルの日本一を競う技能競技大会です。次代を担う技能者の育成に当たっての努力目標となるとともに、「ものづくり」の大切さ、素晴らしさ、技能継承の重要性、必要性を実感してもらうことを目的に厚生労働省、中央職業能力開発協会の主催により開催されています。技能者育成支援室長・木口昌子氏に「技能の継承」への意義、役割などについて伺いました。
全国から実力者が結集し、他流試合を通じて切磋琢磨
―業界内に「技能の継承」を危惧する声が高まるなか、「技能五輪全国大会」開催の意義は大きいと思います。
木口 どんな職業でも変わりませんが、基本となる知識や技術を学ぶのは、同じことの繰り返しですから退屈な部分もあります。しかし、技能五輪という技能を競う場があり、県大会、全国大会があって、その先に国際大会があるなら、それを目標に頑張れるでしょう?中学や高校の部活みたいなもので、試合に出る喜びだとか、レギュラーに定着するための努力だとか、そういった要素が詰め込まれているような気がします。
―確かに目標になりますね。
木口 他人の技を見ることができる点もポイントです。職人は一人でコツコツ仕事をすることが多いので、なかなか他人の技術を知る機会がない。技能五輪は全国から実力者が集まるので「へぇ~、その手があったか!」などとけっこう刺激になるんです。
―他流試合みたいなもの?
木口 ええ、それらの経験を通じて切磋琢磨する部分は多いと思いますよ。参加したり見学したりした方はご存じだと思いますが、技能五輪って、けっこう感動的なシーンが多いんですね。この感動を一人でも多くの人に伝えたいと思っていたところに、今回、「ものづくりマイスター制度」に国の予算がついたことで弾みがつきました。この流れを断ち切らないようにしたいですね。
―参加者はもちろんですが、彼らを指導するものづくりマイスターの方々も皆さん良い表情をしていて、それが印象的でした。
■技能継承事例
「技能五輪全国大会」(昨年11月22~25日開催)の出場に向け選手を育成する教育者の方々に「技能の継承」についてお話を伺いました。
ものづくりマイスター制度でベクトルの向きが同じに
木口 これまではそれぞれの分野で技能の継承という問題に危惧を抱き、取り組まれていたはずです。ただし、その方向性が皆さんバラバラで統一性がなかったことも事実でした。今回のものづくりマイスター制度の創設により、業界全体が同じ目標に向かったんじゃないかなと思います。
―この制度に対する期待は大きいですね。
木口 ええ、そうだと思います。ものづくりマイスター制度の目的のひとつに、若い人たちと建設業界の技能を有する人たちの出会いの場の創出があります。建設業界に若い人の目が向かない背景には、学校や日常生活などで"建設業に関わるものづくり"に触れる機会が皆無に近く、将来の仕事としてイメージしにくい現状があります。
―確かに触れ合う機会はないですね。
木口 学校で行っている授業では実際の現場、必要な技能を知ることが難しい。そこをカバーするのが、現場経験が豊富なマイスターの方々です。現場ではどういった技術や知識が求められていて、そのためにはどんなことを学んでいくべきか......そこがクリアになるだけでも若い人たちへのアピールになりますし、理解が深まることで「この業界でやってみたい!」となりますからね。
―技能五輪、技能検定について、今後の展望がありましたらぜひお聞かせください。
木口 例えば技能検定については、「資格を取ったらどうなるの?」といった疑問が常に付いて回りますが、同時に、取るまでの過程で得るものが財産だ、という考えがもっと広まっていけばいいと思います。そこに目を向けてもらえたら。そして、その上で、身に付いた技能を次の世代に継承させていくという流れが出てくると理想的ですね。技能を磨いて、さらに上を目指したいという気持ちが出てきたら技能五輪にチャレンジして、運と実力に恵まれたら国際大会もあって......。
―国際大会では、日本と他国のやり方の違いがあって、その辺が難しいのでしょうか。
木口 国際大会は欧州勢が多く、日本との施工方法の違いはあります。ただ、国際大会で出される課題というのは、各国のエキスパートがそれぞれ課題を持ち寄って話し合い、国際大会の課題を決めています。ここでの話し合いで、欧州各国に有利な課題になることもあるのは事実です。
■ものづくりマイスター インタビュー
「技能五輪全国大会」(昨年11月22~25日開催)の出場に向け選手を育成するものづくりマイスターの方々に「技能の継承」についてお話を伺いました。
エキスパート育成も含めて技能五輪に注目して!
―そのエキスパートってどんな人たちなんですか。
木口 エキスパートとは各参加国を代表する専門家のことで、競技課題の作成や審査などを行うとともに、自国の大会参加選手の強化訓練のための監督の役割も担っています。日本のエキスパートは毎回変わりますが、欧州各国のエキスパートは、同じ人がずっと継続して務めているケースが大半です。日本のエキスパートも長年務めて、影響力をもつような状況になれば、日本人に有利な課題になる可能性も出てくると思います。
―そうなれば、日本の建築技術を世界に広めるチャンスでもありますね。
木口 国際大会の公用語は、英語、フランス語、ドイツ語で、言葉のハンデはありますが、ぜひそこは乗り越えてもらって、世界に日本の技能を広めてもらいたいですね。
―エキスパート同士の横のつながりもありますか。
木口 欧州のエキスパートは長年務めている人が多いこともあって、国際大会で顔を合わせると「ヤァヤァヤァ」「久し振り!」と言い合うような人間関係が出来上がっていますが、その点日本は、一部の職種を除いて遅れています。
―そればかりは個人レベルでは厳しいですね。
木口 ええ、業界全体のバックアップがあると心強いですね。業界団体、企業単体でもいいのですが、技能五輪のエキスパート育成にも着目してもらえると、結果的に日本の技能伝承につながっていくはず。ぜひともお願いしたいものです。
―貴重なお話、どうもありがとうございました。