人材確保・育成

建設産業における労働者賃金の現状

若者が働きたいと思える処遇へ 国を挙げて、この産業をどうするかを考えるべき

(一社)日本建設躯体工事業団体連合会 会長 才賀 清二郎 氏

 全産業労働者の平均年収が約530万円といわれる中、建設産業における技能労働者の賃金の実態は、非常に厳しいものとなっています。そして、それが本産業への若者の就労意識を減退、あるいは喪失させているといっても過言ではありません。そこで今回の特集では、本産業に関係が深い有識者、団体幹部の方などに、技能労働者の賃金の現状と課題、今後の展望などを伺いました。

現状と課題1|専門工事業団体/とび・土工工事業|若者が働きたいと思える処遇へ国を挙げて、この産業をどうするかを考えるべき


給金の上下幅は少ないが いまだ日給月給が多い


才賀会長

才賀会長

―まず、とび・土工工事業の現状からお聞かせください。
才賀 全般的に人手不足という状況ではありません。これは大手ゼネコン各社が消費税や資材が上がる前に大型工事を契約しましたので、とび・土工の作業範囲は大方終わってしまったこと、さらに小規模工事は無理に受注せず控えている現状があるからと考えられます。

―とび・土工の給金についてはいかがでしょう。
才賀 とび・土工の専門工事業者は、いまだにペーパーカンパニーも多く、一次請が自社で直用を抱えずに、二次、三次請に依存していることが多く、給金は基本的に日給月給がほとんどです。とびの場合、現在の平均日給は1万9,000円ほど。新人で1万5,000円、職長クラスで3万円近くといったところ。これは、他の業種と比べても悪くないと思いますよ。とび・土工はゼネコンにとっても主業種なので、給金が大きく上下することはなく安定はしています。

―日給1万9,000円のわりに年収が低いのはなぜでしょうか。
才賀 1カ月に25日働けば50万円近くになりますが、実際は、天候などに左右されるので実働20日ほど。平均で年間220日というのが現状で、そこから保険や税金が引かれると300万~350万円くらいになる。ボーナス、盆暮れの手当もないので、決して楽ではないはずですよ。

 

標準見積書の中で社会保険も 徐々に別枠に変わってきた


―技能者の処遇改善対策として国が取り組んでいる「設計労務単価引き上げ」や「社会保険未加入対策」についてはどうお考えですか。
才賀 設計労務単価は昨年2度上がりましたが、反映されているという実感はまだありません。大型の民間工事の場合、駆け込みで契約を結んだゼネコンも多く、それによって工事量が2~3割増しにはなりました。規模の小さい民間工事についてはほとんど変わっていないでしょうね。

―社会保険未加入対策はどうでしょう。
才賀 消費税と同じで、内税、外税がありますよね。社会保険も標準見積書の中には入れるべきですが、内税扱いになるケースが多かったのは事実です。しかし、国の施策になってからは徐々に別枠に変わっていくと思います。
 当会としても全国各地を回り「社会保険を先に支払って、その領収書をゼネコンに請求するくらいの覚悟で取り組んでください」とお願いしています。会員団体で一致団結して取り組みたいとは思いますが、地域によって温度差もありますし、会員団体全てを一つにまとめるのは難しい。

 

省庁、自治体が一斉に動くことが大事


―今後、さらに賃金アップを含めた技能者の処遇を改善するためにはどうしたらいいでしょうか。
才賀 今回、国土交通省が動いたことで設計労務単価が2度上がりましたが、それ以外の省庁、自治体も一斉に動かなければ、二次、三次請まで広がっていきません。我々としては、ぜひ各機関の連携をお願いしたい。

―担い手確保についてのご意見をお聞かせください。
才賀 若手労働者の確保のために、躯体でパンフレットを作成し、都内の工業高校への出前講座で配布しています。仕事に興味を覚えてくれますが、給料と休暇の実態を知ると、辞めていきます。これも、処遇がアップしていけばクリアできるはず。現在、高卒の初任給は14万~15万円。社会保険や税金などを引くと手取りが11万~12万円。年収にして250万円ほど。これでは若い人は入ってきませんよ。最低でも月給20万円くらいのレベルに持っていきたい。

―最後に、建設業界の今後の展望はいかがでしょう。
才賀 国を挙げて、この産業をどうするかを考えることが大事です。そのためには工事金額のボトムアップなどで、若い人が集まるような職場環境を整備していく。ぜひ皆さんと力を合わせて取り組んでいきたいですね。




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