人材確保・育成

建設産業における労働者賃金の現状

「標準見積書」の普及・浸透により 保険・賃金など労働環境の改善へ

(一社)全国鉄筋工事業協会 会長 内山 聖 氏

 全産業労働者の平均年収が約530万円といわれる中、建設産業における技能労働者の賃金の実態は、非常に厳しいものとなっています。そして、それが本産業への若者の就労意識を減退、あるいは喪失させているといっても過言ではありません。そこで今回の特集では、本産業に関係が深い有識者、団体幹部の方などに、技能労働者の賃金の現状と課題、今後の展望などを伺いました。

現状と課題2|専門工事業団体/鉄筋工事業|「標準見積書」の普及・浸透により保険・賃金など労働環境の改善へ


大規模工事の着工遅延で 実は、人手は充足している


内山会長

内山会長

―鉄筋工事業界では、人手不足の状況はどうでしょうか。
内山 「人が足りない」と言われていますが、関東周辺では、昨年末あたりから躯体3種の人手が充足している状況も見られます。その背景には、年度内の公共工事が一通り終了したこと、労務費や資材の値上がりなどで、元請のスーパーゼネコンを中心に民間大規模工事の着工を控えている、あるいは遅延させているという状況があります。結果、工事量が全般的に減少しています。この傾向は今年の夏頃まで続くでしょう。

―若手の採用も控えているのでしょうか。
内山 ええ、人材確保にあまり積極的ではありません。長期的な見通しが立たず人材を抱えたくないのです。2020年の東京オリンピックに向けて計画中の案件は多いですが、決定が先送りのものばかり。オリンピック閉会後も工事量の減少が予想され、先行きが不透明だからです。

 

鉄筋工の全国平均の日給 職人1.5万円、新人1.1万円


―大都市圏と地方では賃金に格差があると聞きます。
内山 東京周辺と復興関連の東北3県がやや高額になっています。もっとも職人クラスで1日1.5万~2万円くらい。当協会の調査では、鉄筋工の全国平均の日給は、世話役クラスで1.8万円。職人が1.5万円前後、新人で1.1万円くらい。いずれも社会保険料抜きの単価です。これでも、ここ数年で徐々に上がってきたのです。

―上がってきた背景をどう分析しますか。
内山 やはり人手不足が大きいですね。安い単価の工事が敬遠され、我々も企業防衛のために適正工期で利益のある仕事を請けるようになりました。労務単価をある程度確保できるようになりましたが、社会保険や雇用保険の捻出には至らず、二次下請での保険加入率は2割そこそこ、三次下請はほとんど加入していません。

―さらに賃金アップ、処遇改善を進めるにはどうしたらいいでしょうか。
内山 歩切り発注をやめ、全ての工事で社会保険料を別枠計上してもらうことです。専門工事業者は標準見積書で必要な管理費用を計上し、元請に説明して要求することです。

 

標準見積書で費用を明確に 適正価格を発注者に計上する


―業界内の標準見積書の浸透度はどうでしょう。
内山 内訳が曖昧な総額見積りが通用していたのは、我々専門工事業者にノウハウがなかったこともあります。見積りの適正化の点でもメリットは大きいのですが、現実は遅々として進んでいません。
 全鉄筋加盟約850社の中にはパソコンがない会社もあります。協会では、2013年4月より約500社からパソコンに強い担当者を中心に講習会を開催し、管理費用の内訳、施工の歩掛計算方法等、標準見積書作成を指導しました。その努力もあって、全鉄筋の会員に限っては標準見積書の普及・浸透度は他の業界と比較にならないと思います。昨年10月には一次・二次の鉄筋工事作業員約27,000名の社会保険加入状況調査を実施しました。本年は、見積りの提出元請名、受取元請名、提出件数、契約数等について詳細な実態調査を実施します。保険加入者は徐々に増加しています。

―標準見積書の活用を進めるにはどうすればいいとお考えですか。
内山 まず、我々の自助努力に加えて、国土交通省の公共団体、地方自治体、民間発注業者への指導も期待しています。従来の総額見積り方式から、標準見積書では内訳を明白にして、二次請は一次請、一次請は元請、元請は発注者に必要な費用を計上して認めてもらい、支払ってもらって初めて成立するものではないでしょうか。こうした認識が元請や発注者にもあれば、社会保険や雇用保険の問題もクリアされ、自ずと収入も安定するでしょう。休みの取得増加も図れるはず。労働環境が改善し、若い人が目を向けてくれれば、鉄筋工の未来も明るくなるだろうという長期的な狙いもあるのです。




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