人材確保・育成

建設産業における労働者賃金の現状

会社の屋台骨を背負って立つのは これから就職する若者たち

(一社)日本型枠工事業協会 会長 三野輪 賢二 氏

 全産業労働者の平均年収が約530万円といわれる中、建設産業における技能労働者の賃金の実態は、非常に厳しいものとなっています。そして、それが本産業への若者の就労意識を減退、あるいは喪失させているといっても過言ではありません。そこで今回の特集では、本産業に関係が深い有識者、団体幹部の方などに、技能労働者の賃金の現状と課題、今後の展望などを伺いました。

現状と課題3|専門工事業団体/大工工事業|会社の屋台骨を背負って立つのはこれから就職する若者たち


4段階ほどの職階を検討すべきではないか


三野輪会長

三野輪会長

―型枠工事業の現状はいかがですか。
三野輪 ゼネコンの受注が好調なので、2014年度は秋口から忙しくなると予想していましたが、2013年度に比べ工事量は減り、人手不足も感じられませんでした。原因としては、受注から新築着工までにはタイムラグがあることが挙げられます。特に大型物件では最初に解体工事をしますから。この状況は今年度末まで続くと思います。

―賃金はいかがでしょう。
三野輪 上がりにくいことは確かですね。仕事がないとどうしても受注単価を下げる企業が出てきてしまいますから。当然賃金も下がります。とはいえ平均日給が1万円を切ったリーマンショック直後に比べれば、全国的に見て上昇傾向にあることは間違いありません。我々の場合は手間請もあるので、うまくいけば日給2万3,000円以上になることもあります。

―技能に応じて賃金の目安はありますか。
三野輪 業界内のおよその目安はありますが明確なランクはありません。

 

法定福利費の支払われない業界に若者は入らない


―建設業の技能者の平均年収は380万~390万円と、製造業より60万~70万円低い現状ですが、どうすれば上がるとお考えですか。
三野輪 会計法の単年度主義の問題から、どうしても発注時期が集中します。そうすると、丸々1カ月仕事がないこともあります。仕事の平準化をもっと真剣に考えていくべきです。閑散期に賃金は上げられないから、当然社会保険料を払う余裕もないのが実態です。

―では、社会保険加入を普及させるためには何が必要でしょうか。
三野輪 一つは、標準見積書で法定福利費として社会保険を別枠計上する契約を徹底すること。国の後押しが必要です。もう一つは、価格競争の阻止。仕事がなければ単価が落ちて過当競争が始まります。何らかの方法で競争をストップさせる必要があります。それと、厚生年金の技能者の加入期間の問題。例えば職場を移ったとき、そこが年金に加入していなければ加入期間が中断状態になってしまう。下手をすればそのまま加入せずに終わってしまい、本人にしてみればそれまで支払ってきた分をいわばドブに捨てることになるんですね。長期間未加入であった技能者が加入した後の加入期間の問題も大きい。受給資格期間が10年に短縮される話もあり、特に若い技能者から加入希望の声が聞こえてきています。若い人の社会保険加入は、若い人の離職の抑止力になるかもしれません。建設技能者の社会保険加入促進のために、受給資格期間の短縮はぜひ実施していただきたいと思います。

 

標準見積書の普及に向けCDを配布


―標準見積書は活用されていますか。

三野輪 会員233社のアンケート調査によると、「提出している」35%、「提出していない」51%、「書き方が分からない」10%、「知らない」5%という結果です。手間がかかる、作成が難しいという声もあって、昨年協会では標準見積書を簡単に計算できるソフトを企画・製作し、ソフトの入ったCDを今年1月末より会員に配布します。会員でなくても購入いただけます。この2年間公共工事設計労務単価を上げていただきましたが、このCDではその設計労務単価と、各社で現在支払っている給与の両方で計算できるようになっています。残念ながら民間工事では設計労務単価が採用されないケースが多いのが現状ですから。

―最後に、担い手確保に向けての抱負をお聞かせください。
三野輪 まずは業界の仕事を知ってもらうこと。仮囲いの中で仕事をしていては、一般の方に我々が何をしているのか知ってもらえません。まずは学校の先生に知ってもらおうと、昨年製作した業界紹介DVDを今年から配布予定です。他産業でも深刻な人手不足に陥っている中、ただでさえ我々の業界は3Kと言われマイナス要素もあります。処遇の改善は急務です。ぜひ経営者の皆さまには「5年10年先の会社の屋台骨を背負って立つのは、これから就職する若者」としっかり理解された上で若手を雇用し、育てていってほしいですね。




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