基金の活動

特集 建築施工管理CPD制度

建築施工管理CPD制度|建築系のCPD制度が目指すもの

建築CPD運営会議 プログラム審査会 委員長
東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻 教授 松村 秀一 氏

 当基金は建築施工管理技士など建築施工管理を担当する技術者のための「建築施工管理CPD制度」の運用を開始しました。本誌特集では、本制度について解説するとともに、有識者の方々へのインタビューをはじめ、プロバイダー(講習実施者・教材提供者)、利用者の皆さんの声を紹介します。

 

建築系のCPD制度が目指すもの



建築施工管理CPD制度運用開始の背景とは?

松村氏

松村氏

──現在のところ、建築系のCPD制度には、建築士会CPD制度、建築設備士CPD制度、日本建築家協会CPD制度などがありますね。
 ええ。近年注目されています。環境や安全、技術力など、建設産業に対して社会的な要請が高まるいま、多様化、複雑化する工事を管理・統括して施工するには、継続的な能力向上が欠かせません。建築施工分野における「建築施工管理CPD制度」は、これまで設計中心であった建築系のCPD制度の加点対象となるプログラムに、施工系のプログラムが加わることで、主に建築施工管理技士(監理技術者を含む)、その他建築施工管理に携わる技術者の知識及び技術の向上、信頼と地位確立を図ることが可能となります。そのために継続的能力開発を支援するとともに、自己研鑽実績を客観的に評価して活用できるようにするものです。
──建築系のCPD制度の現状はどうなっていますか。
 現在、建築、構造、設備の関係団体が運営するCPD制度の実績情報は、「建築CPD情報提供制度」内で統合されています。また、プログラム認定を共有化し、広く参加者へ情報を提供することで建築系のCPD制度のより良い活用、普及の推進を目指しています。参加者は約3万人、認定を受けた講習会などのプログラムは約1万件となりました。
 また、実績証明書についても国土交通省の官庁営繕事業に係る設計・工事監理業務の発注及び建築工事等の発注に際して活用されているほか、30道府県及び14市において設計・工事監理業務の発注、建築工事の発注等で活用されている現状です。 ──建築施工管理CPD制度の運用が開始したことで建築系のCPD制度は充実したのではないでしょうか。
 これまで建築CPD情報提供制度の対象資格は建築士、建築設備士でしたが、「建築施工管理CPD制度」が加わり、建築生産における一連の業務の流れに対応することができるようになったのです。


<建築系のCPD制度の全体像>

図

 



自社以外の状況を知ることで自分のレベルが把握できる

──建築施工管理CPD制度は、企業内研修ができない会社にとっては有意義な制度だと思います。
 小規模の会社は社内研修会をやりたくてもできません。そんな方々に向けてもCPD制度は社員の受講機会の確保として有効です。さらに、講習会などが少ない地域では、インターネットを利用した学習方法、eラーニングのような方法も必要なのかもしれません。
──学ぶ機会がつくれますね。
 例えば、小さな工務店に入った人は自社のやり方は知っていても、他社のやり方は皆目分からない。入社5年目で「他社の5年目の技術者はどんなレベルにあるのか」知りたいと思っても、現実は知ることもできないのです。
 受講により、自社以外の状況を知ることで自分のレベルが分かり、それはモチベーションを上げるためにも非常に大切なことです。こんな話もあります。入社5年目の技術者の方がたまたま誘われた勉強会で、「テーマが高度で驚いた!」そうです。さらに他社の5年目の技術者に出会って「俺は今まで何をやっていたんだ!」と勉強不足を痛感したとか……。学ぶ機会も必要ですが、“気付く”機会や場面を創出できるか、そこも重要ですね。
 自社以外の人たちと出会うことで、「自分は技術者としてどのレベルにいて、どこが足りないのか」「将来に向けて何を学ぶ必要があるのか」知ることができますし、仕事が順調だと「これでいいんだ」と努力をしなくなる傾向にありますからね。

 

<制度の基本的な流れ>

図

CPD制度を使って動機づけや、自己実現に役立てる

──施工管理技術者が抱えている問題をどうお考えですか。
 技術者の高齢化が進み、若手技術者が先輩と話し合ったり、仕事を教わったり、そういった機会もどんどん減っています。施工管理技術者はどう成長していけばいいのか、何を目指していくべきか、その先にあるものは何なのか……。今までは先輩たちとの間で暗黙の了解事項だったものが、あやふやになってきている。技術や知識を積み上げていっても「自分はどこに向かっているのか」その設定自体が曖昧になっています。
──将来的な目標を提示してあげないとダメですね。
 目標がなければ、若い人も働きにくいですよ。そういった意味で、CPD制度のような仕組みを利用して、動機づけとか自己実現のために役立てていければいいと思います。
 会社単位でやりたくても大組織でもない限り難しいし、そこは業界が一丸となって取り組む必要があるでしょうね。それが業界の底上げになり、イメージアップにもつながっていくわけですから。今は業務上で直接役に立つものではないけれど、将来的には必ず役立つとか、そこをちゃんと提示してあげることが重要です。



CPD制度と関連付けることが重要

──これまでの建築系のCPD制度は、業種に対してプログラム分類が分かりづらいと言われていました。今までは業界、団体が提供するプログラムに建築施工管理技士を対象としたプログラムが混在していた状況です。
 建築施工管理CPD制度が加わった事で体系的になり全体が分かりやすくなったのではないでしょうか。
──プロバイダー(講習実施者・教材提供者)の方々への要望があれば教えてください。
 もっと利用者のニーズを探って、内容を吟味してもらえるといいですね。もちろんニーズとは関係なく、この資格にはこの知識やスキルが必要というものはあります。その場合でも、年齢やキャリアに合わせて「こんなことに困っているのではないか」といったものを考えて、プログラム化してもらえるといいと思います。それから受講者のフォローも重要です。満足度調査を実施するとか、受講後に「プログラムを受けたことでこんなメリットがあった!」「〇〇が契約できた!」など、受講を後押しするような具体的な事例があればいいでしょうね。
──今後の展開に向けアドバイスをお願いできますか。
 理想とすべき施工管理技術者像とか、その生き方とか、どうしたら優秀な人材が集まるのかとか、いま本質的にこの業界で考えるべきこととCPD制度の教育の内容を関係付けて、その仕組みをつくっていくことが重要です。


イラスト

CPDとは?

 欧米では、専門技術の維持向上を図ることを目的とした技術者の継続的な能力開発「Continuing Professional Development(略してCPD)」が常識になっています。日本国内においても、医師、機械分野、コンサルタントなど多くの団体がこの制度を早くから取り入れ運用してきました。建設業界におけるCPD制度は、技術、技能の向上のための加点対象となるプログラムの受講で、CPD単位が加点される仕組みです。





 



ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ